2024年8月27日(火)

BBC News

2024年8月27日

イスラエル軍は25日、レバノン南部にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの数千のロケット発射装置を戦闘機で「先制攻撃」したと発表した。同組織がイスラエルへの攻撃を準備し、それが目前に迫っていることを確認したからだという。

ヒズボラはその後、イスラエルに向けてロケット弾やミサイルを数百発発射したと発表。この攻撃は最高幹部フアド・シュクル氏が先月にイスラエルによってベイルートで暗殺されたことへの報復の第1段階だとし、自分たちの計画は阻止されなかったと主張した。

昨年10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まってからの10カ月間、イスラエルとレバノンの国境を挟んだ交戦はほぼ毎日続いている。そして、敵対する両者の間で本格的な戦争が勃発するのではないかという懸念が高まっている。

ヒズボラとは

ヒズボラは、レバノンのイスラム教シーア派組織だ。国内で政治的影響力をもち、同国で最も強力な武装勢力を握っている。

1980年代初頭に、中東最大のシーア派勢力であるイランによって、イスラエルに対抗する目的で創設された。当時、イスラエル軍は内戦中のレバノン南部を占領していた。

ヒズボラは1992年以降、国政選挙に参加し、政界で大きな存在感を示している。

その軍事部門はレバノンに駐留するイスラエル軍やアメリカ軍に致命的な攻撃を加えてきた。2000年にイスラエル軍がレバノンから撤退した際には、それを自分たちの手柄だとした。

それ以来、ヒズボラはレバノン南部で数千人の戦闘員を維持し、大量のミサイルを備蓄している。そして、係争中の国境地帯におけるイスラエルの軍事プレゼンスに反発し続けている。

西側諸国やイスラエル、湾岸地域のアラブ諸国、アラブ連盟(21カ国・1機構)からはテロ組織に指定されている。

2006年には、戦闘員らがイスラエルに侵入し、致命的な攻撃を実行したことをきっかけに、ヒズボラとイスラエルとの間で本格的な戦争が勃発した。

ヒズボラの脅威を排除しようと、イスラエル部隊はレバノン南部に侵攻したが、ヒズボラは生き延びた。以来、ヒズボラは戦闘員の数を増やし、新型で、より高性能な武器を手に入れている。

ヒズボラの指導者、ハッサン・ナスララ師とは

ハッサン・ナスララ師はイスラム教シーア派の聖職者で、1992年からヒズボラを率いている。ヒズボラを政治的、そして軍事的に影響力の大きい勢力に変貌させるうえで重要な役割を果たした。

イランや、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師と密接なつながりがある。

何年もの間、公の場に姿を見せておらず、イスラエルによる暗殺を恐れているためだとうわさされている。

それでも、ヒズボラのメンバーからは変わらず崇拝されている。毎週、テレビ演説を行っている。

ヒズボラの戦闘力はどれほど強いのか

ヒズボラは世界で最も重武装した非国家勢力の一つ。その資金や装備はイランが提供している。

ナスララ師は10万人の戦闘員を有していると主張しているが、複数の独立した推計では2万~5万人と、その数に開きがある。

多くの戦闘員はよく訓練されており、戦闘経験も豊富だ。シリア内戦で戦った者もいる。

米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)によると、ヒズボラは推定12万~20万発のロケットとミサイルを保有している。

その武器備蓄の大半は小型の無誘導地対地ロケット弾が占めているとされる。

一方で、対空ミサイルや対艦ミサイルのほか、イスラエル領内の奥深くを砲撃できる誘導型ミサイルも保有していると考えられている。

ヒズボラの保有武器は、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルとの戦闘を続けるイスラム組織ハマスが自由に使えるものよりはるかに洗練されている。

イスラエルと戦争を始める可能性は

以前は、両者の戦闘は散発的なものだった。しかし、ハマスの武装集団によるイスラエルへの前例のない攻撃が起きた翌日の昨年10月8日、事態はエスカレートした。パレスチナ人に連帯を示すヒズボラがイスラエル側に攻撃を仕掛けたためだ。

それ以降、ヒズボラはイスラエル北部や、イスラエルが占領するゴラン高原にあるイスラエル軍拠点を標的に、ロケット弾8000発以上を発射したり、装甲車に対戦車ミサイルを撃ち込んだり、爆発物を搭載したドローン(無人機)で複数の軍事目標を攻撃したりしている。

イスラエル国防軍(IDF)は報復として、レバノン国内のヒズボラ拠点を空爆や戦車で攻撃するなどしている。

レバノン保健省は、同国ではこの10カ月間の戦闘で560人以上が殺害されたとしている。その大半はヒズボラ戦闘員だが、少なくとも133人は民間人だという。

イスラエル国内では、少なくとも26人の民間人と23人の兵士が殺害されたと、当局は発表している。

イスラエルとレバノンの国境地帯では20万人近くが家を追われている。

こうした戦闘が起きているものの、イスラエルとヒズボラの双方は現在に至るまで、一線を越えて本格的な戦争に突入せず、敵対行為を抑えてきたと、複数の観測筋は指摘する。しかし、制御不能な事態に陥る恐れはある。

7月27日にイスラエル占領下のゴラン高原にあるサッカー場にロケット砲が着弾し、12人の子供や若者が殺害されたことで、こうした懸念は一気に高まった。イスラエル側はヒズボラによる攻撃だと主張したが、ヒズボラは関与を否定している。

IDFは同月30日、レバノンの首都ベイルートの南郊を空爆し、ヒズボラの最高幹部フアド・シュクル氏を殺害したと発表した。

その翌日にはイランの首都テヘランで、ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ政治局長が殺害された。イスラエルは関与を肯定も否定もしていない。

ヒズボラとイランはイスラエルへの報復を誓い、それ以降、中東諸国はヒズボラとイランがどのような対応を見せるのか様子をうかがっている。

アメリカはガザでの停戦と人質解放に向けた協議を仲介することで緊張緩和を図り、イスラエルとハマスの双方に圧力をかけている。ヒズボラはガザでの戦闘が終わらない限り、敵対行為はやめないとしている。

(英語記事 What is Hezbollah in Lebanon and will it go to war with Israel?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c1w79yx05ddo


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