年末には改革を統括するタスクフォース(「全面深化改革領導小組」)の長に習近平自ら就任することが公式に報道されており(李克強総理や韓正・上海市党委員会書記が就任という憶測もあった)、各分野での改革にイニシアチブを発揮することが期待されている。今回のスピーチではイデオロギー的内容に触れなかったが、もともとは権力強化を図るためにイデオロギーを強調し、トップダウンで改革を進めるつもりではないかという見方もでていた。
軍属の歌手である彭夫人を持つ習近平ならでは
昨年の胡錦濤前主席による挨拶は「共に手を携えて世界平和と共同発展を促進しよう」という題で中国の平和的発展や中台関係や香港マカオとの関係を強調するものだったから、これと比べれば、習主席のスピーチはより国内的な側面に焦点を合わせるものだった。
また、兵士への配慮が示された点が習近平的である。「祖国を離れ使命を全うしている」と異国や辺境の地で哨戒任務に就く兵士たちを見舞う言葉は胡前主席からは聞かれなかった。国のトップがわざわざ言及するほど兵士を気遣っているのだ、というポーズはあろうが、習主席はとりわけ強調している。このような軍や兵士と一体感を持つような政治文化、アイデンティティが中国人に深く刻み込まれてきたことは日本ではあまり知られていない。
そのようなアイデンティティの刷り込みを国民に対して行ってきたのが現在のファーストレディーの彭麗媛、習近平夫人である。持ち歌ではないが、彼女も歌っている「十五夜の月(十五的月亮)」という歌は国境警備兵による故郷への思いを詠んだものだ。中年男性の誰もが歌える国民的歌謡曲である。中央テレビが南沙諸島の島嶼に駐屯する兵士たちから毎年のように新年の挨拶を放送するのもこうした政治文化を反映してのことだ。習主席の挨拶は、このような中国の政治文化を反映したものであり、軍属の歌手である彭夫人を持つ彼ならではの内容である。
軍への配慮は、汚職の取り締まりを強化し、規律引き締めを行いながら、武器装備の近代化を図るという二つの課題を同時に取り組む習政権の国防政策を巡るジレンマを示すものでもある。昨年秋の共産党中央委員会の第3回全体会議(3中全会)では軍の機構改革も提起され、兵員や部門の削減や統廃合が俎上(そじょう)にのぼる中で軍の支持を取り付けなければならないことも兵士への配慮を示す大きな要因であろう。