2024年9月2日(月)

BBC News

2024年9月2日

ドイツ東部テューリンゲン州で1日、州議会選挙があり、移民排斥を掲げる極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党となった。同じく州選挙のあった東部ザクセン州でもAfDは第2党につけ、勢力を伸ばしている。

テューリンゲン州で極右政党が勝利したのは、第2次世界大戦後で初めて。ただし、AfDが同州で州政府を形成する望みは薄いとされる。

同州でのAfDの得票率は32.8%。保守派の野党・キリスト教民主同盟(CDU、23.6%)に9ポイント差をつけたほか、オラフ・ショルツ政権を形成する社会民主党(SPD、6.1%)と緑の党(3.2%)、自由民主党(FDP、1.1%)に大きな差をつけた。

隣接するザクセン州でもAfDは得票率30.6%を記録。第1党となったCDU(31.9%)とはわずか1ポイント差だった。同州でも連邦政府の与党3党は振るわず、SPDは7.3%、緑の党は5.1%、FDPは0.9%だった。

ショルツ首相は、 この結果は「苦しい」ものだとした上で、各州の主流政党に対し、極右を排除した州政府を樹立するよう呼びかけた。ロイター通信に送った声明の中でショルツ氏は、「AfDはドイツにダメージを与えている。経済を弱体化させ、社会を分裂させ、わが国の評判を落としている」と述べた。

全国の世論調査でも2位

テューリンゲン州でAfDの最有力候補だったビョルン・ヘッケ氏は、ドイツで大きな物議を醸している人物。今回の結果を「歴史的勝利」だとたたえ、大きな誇りを語った。ヘッケ氏は直接議席を獲得できなかったものの、党の候補者名簿でトップだったため、議席を確保した。

テューリンゲンのAfDは右翼過激派に指定されている。ヘッケ氏自身もナチスのスローガンを使用した罪で罰金を科せられたことがあるが、故意の使用を否定している。

ドイツで最も有名なホロコースト生存者の一人であるシャルロッテ・クノブロッホ氏は、これらの州選挙が第2次世界大戦勃発から85年目の日に行われたことを指摘。今回の選挙の結果によってドイツは「より不安定で、より寒く、より貧しく、より安全でなく、より住む価値のない国」になる危険性を残したと述べた。

総選挙が1年後に控えるなか、AfDは全国世論調査で2位につけている。共同党首のアリス・ヴァイデル氏は、今回の結果は政権与党3党に対する「鎮魂歌」であり、東部の両州の有権者がAfDの政権を望んでいることは明らかだと述べた。

「我々抜きでは、安定した政府はもはや不可能だ」と、ヴァイデル氏は語った。

テューリンゲン州のヘッケ氏もこのメッセージを繰り返し、CDUの有権者の中には、両党が協力すれば喜ぶ人がたくさんいると示唆した。

AfDは、他党の支持がなければ州政権を形成できない。一方、第2党のCDUは、AfDとの連立は「検討しない」と明言している。

難民や亡命希望者の問題が焦点

1日の州議会選での有権者は約500万人だった。公共放送ZDFの調査によると、テューリンゲン州では30代以下の36%がAfDに投票し、他の政党を大きく上回った。

AfD支持者の最大の争点は移民問題、特に難民と亡命者問題だった。

テューリンゲン州の州都エアフルトで、AfDに投票したミヒャエルさんは、「政治家たちは、特にやっかいな移民と外国人について、たくさんの約束をしてきた」とBBCに語った。

「しかし、何も起こらなかった。何もなかった。それらの党は約束をするだけだった。でも今は自分の政党がある。そして、私は自分の決断を支持する」

ミヒャエルさんのパートナーのマヌエラさんも、人々が変化を求めていると同意した。

難民問題が再燃したのは、投票の1週間余り前、 ドイツ西部の都市ゾーリンゲンの祭りで3人が刺殺された事件で、シリア出身の男性が容疑者として逮捕されたのがきっかけだった。

AfDのベアトリクス・フォン・シュトルヒ副党首はBBCの番組「ニューズアワー」に出演し、他党は何年も前から、AfDの難民政策を過激派として攻撃してきたと語った。そして、先週、政府が発表した治安対策について、「選挙の2日前に、私たちがいつも言っていることをやろうと動き始めた」と指摘した。

AfDはまた、ウクライナへの武器供給の停止を望んでいる。これについては、テューリンゲンとザクセン両州で第3党となった左派ポピュリストのザーラ・ヴァーゲンクネヒ氏が共同党首を務める新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」も同じ立場を示している。

ただし、ヴァーゲンクネヒト氏は他の政党と同様、極右との連立を拒否している。

選挙の結果、テューリンゲン州議会(定数88)ではAfDが3分の1以上の32議席を獲得。CDUが23議席を得る見込み。AfDはこれで、州憲法の改正や判事の任命など、3分の2議席の賛成が必要な投票での、可決阻止少数を確保した。

与党3党ではSPDが6議席を獲得したが、緑の党とFDPは議席を得られなかった。

ザクセン州ではCDUが42議席、AfDが41議席、第3党のBSWは15議席を得た。

今回の州選挙は、ショルツ首相率いる「信号機」連立政権の不人気ぶりを浮き彫りにした。信号機とは、各党の色が赤、黄、緑の3色であることから名付けられた。

東部の第3の州であるブランデンブルク州では、3週間後に議会選が予定されている。世論調査ではAfDが優勢だが、SPDとCDUとの差は数ポイントにとどまっている。

AfDはザクセン州とテューリンゲン州でともに、連邦憲法擁護庁(BfV)によって右翼過激派に分類されている。ドイツの裁判所は5月、BfVがAfDを過激主義の疑いで監視下に置くことは正当だとの判決を出している。

AfDのヘッケ氏がエアフルトで支持者たちと共に勝利を祝う一方で、AfDに反対する人々が、テューリンゲン州議会の前に集まった。

州議会前に集まったデモ参加者の中には、地元の学生ハンナさんもいた。

「AfDがナチス政策をとっていることに気づいていながら、気にしていない人がたくさんいると思う。ドイツには、この件に関して何らかの責任がある」と、ハンナさんは語った。

また、ヴァーゲンクネヒト氏率いるポピュリスト政党の躍進は、左翼党に直接的な影響を与えた。左翼党はテューリンゲン州での前回選挙に勝利したものの、今回は第4党に転落した。

同州でSPDと緑の党との連立を率いていたボド・ラメロウ州首相(左翼党)は、今回の選挙戦には恐怖という特徴があったと指摘。自分は「ファシズムの常態化と戦っている」と述べた。

(英語記事 German far right hails 'historic' election victory in east

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cly9p3xv2eyo


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