セブ国際空港の眠れない夜
2024年3月14日午前2時半。成田発の格安航空便は午前零時過ぎにランディング。到着ロビーから外に出ると超熱帯夜。夜明かしのため出迎えの人たちが腰かけているコンクリのガードレールに坐った。
隣に2人の女子、その向こうにヤンチャ系男子の二十歳くらいの3人組。3人は放浪ジジイの隣に座っている少女の韓国人ボーイ・フレンドが到着するのを待っていた。
韓国男子は頻繁にセブ島に遊びに来て毎度お土産を持参するようだ。ヤンチャ男子はドライバー役だ。
午前3時前に到着ロビーから出てきた乗客を見つけると隣の少女が駆け寄った。なんと少女のボーイ・フレンドは頭部が薄くなった50歳くらいのくたびれた中年オジサン。会社帰りのさえない黒っぽい背広上下。猛烈な韓国ビジネス社会で酷使されている安サラリーマンがセブ島でつかの間の休日を過ごす。なにか悲哀を感じさせる韓国オジサンの後ろ姿だった。
長距離バスの隣席の女性
韓国オジサンの後姿を見送っていたら2年前の出来事がフラッシュバック。2022年7月、午前9時マニラの繁華街からルソン島南東端の町レガスピ行きのバスに乗った。レガスピ到着は夜8時という長丁場。
放浪ジジイは窓側の席で隣席は中年女性。化粧っ気のない疲れた顔、普段着のフツウのオバサンなので気にも留めなかった。何かの拍子に言葉を交わして、放浪ジジイが日本人と知るとマリソルと名乗り問わず語りで話し出した。
マリソルはレガスピの出身。二女は17歳でレガスピの高校に通っている。ファーストフードの店でアルバイト中に転んで足を骨折。大手企業なのですぐに労災認定して費用会社負担で即日入院した。
マリソルは現在マニラ市内でベビーシッター兼ハウスキーパーとして住み込みで働いている。二女から連絡を受けて今朝一番のバスに乗った。それで化粧もせずに普段着のまま飛び出して来たようだ。
ベビーの母親はドバイの米国系ホテルのマネージャー
マリソルが世話しているベビーの母親は、ドバイで働いており留守宅であるマンションにはベビーの祖母が一緒に住んでいる。ちなみに親に子どもを預けて海外に出稼ぎに行くというのはフィリピンでは極めて一般的である。
この祖母にベビーが懐かないので日頃から持て余しているらしい。バスに乗っている間に祖母から2回もマリソルの携帯に電話がありマリソルが電話口で子どもをあやしていた。1週間の休暇をもらっていたが、祖母は電話で1日も早くマニラに戻るよう要求した。
シングルマザーで2人の娘を育てる苦労
マリソルは二十歳になる前に兵隊と結婚。すぐに長女を出産。そして24歳で二女を妊娠中に夫の浮気が発覚して離婚。当時旦那は軍曹。陸軍事務所の仲介で正式離婚。2人分の養育費は当初6カ月間だけ振り込まれたが元旦那は陸軍を退役して雲隠れ。陸軍事務所の弁護士にも掛け合ったが退役すると陸軍としては打つ手がなく泣き寝入り。
その後はシングルマザーとして働きながら必死に子育て。長女は既に結婚して2人の子供の母親となった。長女の旦那は船乗り(seaman)で真面目な人柄なのでマリソルは心底安堵している。フィリピンでは外国航路の船乗りは安定した職業の高給取りとして人気職種である。マリソルは二女が高校を卒業して就職したら母親としての重荷も軽くなると期待した。