2024年10月10日(木)

古希バックパッカー海外放浪記

2024年9月1日

13年越しの恋人は韓国人ビジネスマン

 11時頃にバスは休憩のため10分ほど停車。マリソルは休憩から戻ってくると、雰囲気が変わって艶っぽくなっていた。化粧してオバサン眼鏡を外して髪の毛も梳かして来た。マリソルの経歴から計算するとまだ42歳なのだ。

 マリソルはしばらくすると自分には韓国人のキムという13年付き合っている恋人がいると話し始めた。あまり積極的に聞きたい話題でもないので、仕方なくマリソルの話を黙って聞いた。

 キムさんは背が高くてハンサムで知的で流暢な英語を話すと、マリソルは臆面もなくのろけた。そして携帯電話の写真を見せた。キム氏は180センチ以上の長身で偉丈夫。知的で端正な風貌。年齢は70歳で放浪ジジイと同年代。しかしキム氏は髪の毛も黒々としており、50代に見える。

 キム氏はバツイチで独身。キム氏は仕事の関係でマニラに10年滞在。その間マリソルはキム氏のアパートへ“通い婚”状態だったようだ。キム氏はマニラでの仕事が終わると、次はニューヨークに仕事を見つけた。現在はニューヨークで化粧品のセールス・マネージャーのような仕事をしているらしい。2年後に雇用契約が終了したら、2週間ほどマニラに来てマリソルと過ごして、それから韓国の故郷に戻るという人生設計らしい。

潔癖症のキムさんは自分ファーストなのか

 キムさんが引退して韓国の故郷に戻った後も、定期的にマリソルに会いにフィリピンに来る計画なのかどうかマリソルに尋ねてみると、マリソルは今一つ確信が持てない様子。

 一連の話によるとキム氏は真面目に仕事をするタイプだが金銭的に余裕があるようには見えないとのこと。でもマリソルのことを大事にしてくれる誠実な紳士だという。

 キム氏は韓国料理以外を全く食べないという偏食家。そして煙草や排ガスが大嫌いなので引退後マニラで暮らすことを忌避。逆に韓国の田舎にマリソルが行けば近隣の好奇の目に晒されるとキム氏は難色を示す。

 キム氏はきれい好きで部屋が散らかっていると不機嫌になり、洗面所にマリソルの髪の毛が一本でも落ちていると嫌味を言いながらゴミ箱に捨てるという。

 放浪ジジイがマリソルに「キムさんはマリソルを愛していると言いながら、自分の価値観を最優先するエゴイストのように思えるけど。お金についても吝嗇家でマリソルに気前よくお金を使うことはしない。食べ物の嗜好、煙草や排ガスの臭い、病的な清潔好き、いずれも自分の価値基準を押し通し最優先している。結局マリソルと一緒に暮らせない理由を次から次へと並べているだけではないか」とキム氏の言動に関する疑問点を少し意地悪に指摘した。

キムさんは友達に自慢できる恋人

 マリソルはやや気分を害したのかしばらく沈黙が続いた。そのあとマリソルは「でも私の友達はみんな、キムさんのような素敵な恋人がいて羨ましいと言うのよ」と言った。

 マリソルにとりキムさんは世間に自慢できる存在なのだろう。長身でハンサムな知的で流暢な英語を話す韓国人の恋人は、貧しいシングルマザーのマリソルにとり、プライドの源泉であり生きる力を与えてくれる存在に違いない。キムさんと付き合い始めた13年前、当時29歳のマリソルは小学生と幼児の2人を抱えて生きてゆくだけで精一杯の毎日だったろう。


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