平均的なニホンジンのオジサンと比較したら
マリソルはさらに話をつづけた。マリソルの女友達の1人がニホンジンと付き合っていた。マリソルも知っているが、背が低くデブの禿茶瓶で品がない“シャチョーサン”とのこと。こうしたタイプのニホンジンは、マニラでは沢山いるとマリソルは強調した。確かにキム氏と比較したら“月とスッポン”だ。しかもそのシャチョーサンはこっそりとマリソルにも言い寄って来たという。
フツウにマニラで家政婦やベビーシッターをしていたら、日本人や韓国人のビジネスマン出会うことはないだろう。マリソルは若いころ子供の養育費を稼ぐために水商売に関わっていたのであろうと筆者は想像した。家政婦やベビーシッターの平均賃金水準では自分1人が暮すのがやっとであり2人の子供を学校に通わすのは不可能だ。
参考までにフィリピンでは幼稚園から高校まで13年間が法律上は義務教育である。しかし貧困のため就学を継続できず、高校卒業証書(ディプロマ)を取得できるのは児童全体の60%未満である。
ニューヨークとマニラを結ぶ携帯電話
夕方6時頃にマリソルの携帯電話が鳴った。ニューヨークのアパートからのキムさんの定期コールのテレビ電話。マリソルはキムさんに二女の入院など報告している。
マリソルがキムさんに挨拶してくれというので、放浪ジジイはキムさんとテレビ通話した。英語の発音がきれいで聞き取りやすい。髭を剃ってワイシャツ姿のキムさんからは分別のある働き盛りのビジネスマンのような印象を受けた。落ち着いた口調で放浪ジジイの旅程を尋ね道中くれぐれも安全に配慮するよう忠告してくれた。挨拶が終わりマリソルに携帯を返すとマリソルはさらに5分くらい通話してから電話を終えた。
マリソルの幸せを祈る
キム氏と話して放浪ジジイのキム氏のイメージは変わった。キム氏は人間的に尊敬すべき紳士のようだ。初対面の赤の他人に対してさりげなく気遣いする余裕がある。
キム氏が日常生活で自分が譲れない条件をマリソルに名言しているのは、お互いに無理せず長く交際してゆくための“方便”のようにも思われた。良い方に解釈すれば、2年後の引退後の生活設計を確言しないのも2人の距離感を測りながら、周辺環境の変化を確認しつつ持続可能な将来設計を具体化したいというキム氏の深慮なのだろうか。
キム氏が引退する2年後にはマリソルの二女も就職している。ニューヨークからの帰途マニラで2人が過ごす2週間の間に将来設計が描けるのではないか。マリソルの後半生に幸あれと願った。
以上 次回に続く