猛暑が続くため、外出もままなりません。
でも、読書体験は、時に外出体験を上まわるものです。
漂流文学
『バタン島漂流記』西條奈加、光文社、2090円(税込)
井上靖の『おろしや国酔夢譚』、吉村昭の『漂流』などの「漂流文学」に、新たな一冊が加わった。1600年代半ば、愛知県知多半島を拠点とする「颯天丸」は、江戸から地元に戻り、あと少しで正月を迎えられる直前、「大西風」という嵐に遭遇する。楫が壊れ、帆柱を折った船は太平洋沖に流された後、逆回転してフィリピン北上にある「バタン島」に漂着する。乗組員たちは無事に故郷に帰ることができるのか。史実をもとにした一冊。
「古典」の驚異を知る
『パピルスのなかの永遠 書物の歴史の物語』イレネ・バジェホ(著)、 見田悠子(訳) 作品社
5280円(税込)
本書によれば今や30秒に1冊本が出版されているそうだ。一方で、2000年以上前に書かれたプラトンの哲学書や、へロドトスのルポルタージュは、どのようにして今に伝えられてきたのか。「紙」はもちろん「キンドル」もない中で、人々によって途方もない手間をかけて守られてきたのが現在「古典」と呼ばれる書物なのだ。エジプト、ギリシア、ローマを起点に女性の動きにも注目して書物の歴史をたどっていく。歴史は男性だけのものではない。
民主主義の危機
『ヒトラーはなぜ戦争を 始めることができたのか 民主主義国の誤算』ベンジャミン・カーター・ヘット(著)、寺西のぶ子(訳)亜紀書房、3080円(税込)
狡猾に権力を手繰り寄せるヒトラー。そのヒトラーの要求に対して譲歩を重ねる英国のチェンバレン首相。一方で、ナチスの脅威を訴え続けるチャーチル。第一次大戦を経て戦争を回避したいチェンバレンの気持ちはよく分かる。しかし、ヒトラーに交渉は通じない。ドイツとの開戦に当たってチェンバレンは「私がどれほどつらい打撃を受けたか」「私にこれ以上の何かができて大きな成功につながったとは思えない」と述べたのに対して、チャーチルは首相就任に臨んで「差し出せるのは血と労苦と涙と汗だけであります」と国民に語った。今も昔も民主主義に必要なのは言葉の力なのだ。