2024年12月4日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2024年7月20日

今月は「たたかい」をテーマに選びました。いま一度、考え直す機会としていかがでしょうか。

引き揚げの神様

 敗戦後、満州や朝鮮半島で暮らしていた日本人は難民、棄民となった。朝鮮半島は38度線で区切られ、以北にいた人々は移動ができなくなった。そんな人々を集団脱出させた松村義士男は戦前、左翼として監視されていた。引き揚げの最中に体を張ったのは、人から蔑まれるような仕事している女性だった。戦前に力を誇示していた軍人や政府関係者が役に立たない中で、こうした名もなき人々が多くの人の命を救ったことを忘れてはならない。

8月15日以降も続いた戦争

日ソ戦争 帝国日本最後の戦い
麻田雅文 中公新書
1078円(税込)

 日ソ戦争の全貌について新資料を基に考察していく。ある意味、当然ではあるが、樺太や千島列島について注目していたのは米国だ。この地域を確保できれば容易に日本の各都市を空爆することができる。米ソの亀裂が深まる勢力圏争いの中で、ソ連の対日宣戦布告は避けられないようにも思える。ただ、もし避けられるとしたら早く降伏すること。つまり、ソ連に参戦理由を与えないことだったはずだ。意思決定者による判断の遅れはやはり致命的だ。

なぜ人は漂流するのか?

絶海 英国船ウェイジャー号の地獄
デイヴィッド・グラン(著)、 倉田真木(訳)
早川書房 2750円(税込)

 英国とスペインが海上の覇権を争っていた時代。スペインのガレオン船を追うため、英国から軍艦が出航し、遭難する。無人島で水も食料もなく過ごすのであれば、陸にいたほうがいいと想像してしまう。それでも、こうした「冒険」に出かける人がいたからこそ世界は広がってきた。それは今、人類が月や火星を目指すことと同じなのかもしれない。本書は、残された詳細な記録から、遭難事件を現在に描き出す。人間の業が見えてくるとともに、当時の英西の覇権争いについても、客観的に考察しており、遭難事件の振り返りだけではなく、歴史そのものへの批評という深みを持つ。


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