マックス・マツァ BBCニュース
米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ前大統領は13日、ハイチからの移民が住民の「ペットを食べている」と自ら根拠なく大統領選討論会で発言したオハイオ州の街について、移民を大々的に「強制送還する」と発言した。討論会でのこの発言については、スプリングフィールド市当局や州知事がそのような報告はないと否定している。他方、同市の市役所に暴力の予告があったのに続き、同日には3カ所の学校が爆破予告を受けて生徒や職員が避難した。
ロサンゼルスに持つ自分のゴルフ場で記者会見したトランプ候補は、移民の強制送還について「スプリングフィールドから始める」と述べ、この街が移民によって「破壊された」と主張した。
スプリングフィールドの市当局は、トランプ候補が広める偽情報によって、住民に動揺が走り、学校などへの暴力の予告が相次いでいると強い懸念を示している。
ジョー・バイデン米大統領は同日、スプリングフィールドのハイチ移民への批判は「まったく間違っている」と述べ、国民に落ち着くよう呼びかけた。さらに、トランプ候補の相次ぐ発言については「やめなくてはならない。彼のしていることは。やめにしなくてはならない」と強く批判した。
トランプ候補が討論会などで繰り返している、スプリングフィールドで移民が住民のペットを食べているという虚偽の主張は、同市の市長、警察本部長、オハイオ州知事がいずれも否定している。
しかし、12日には市役所や学校などが暴力の予告を受けて関係者が避難したのに続き、13日にも市内3カ所の学校に爆破予告があり、全員が避難を余儀なくされた。ボブ・ルー市長によると、脅迫の少なくとも1件は、ハイチ人を侮蔑する内容だったという。
トランプ候補は13日の記者会見で、スプリングフィールドを訪れる予定はあるか質問されると、「オハイオ州スプリングフィールドから大規模な強制送還を行う。大規模な強制送還だ。あの連中を追いだす。ヴェネズエラに戻す」と発言した。
スプリングフィールドに移住した移民のほとんどはハイチ出身で、ハイチ人を対象としたアメリカ連邦政府の事業の一環で合法的な在住資格がある。
なぜトランプ候補が「ヴェネズエラ」と発言したのかは不明。この日の発言では、コロラド州オーロラにヴェネズエラ移民が流入していると述べ、自分が大統領選に勝てば、オーロラでも強制送還を開始するとも繰り返した。
オハイオ州のジョン・ハステッド副知事は13日、カナダから渡ってくる雁（ガン）の写真をソーシャルメディアに投稿し、「この移民は強制送還するべきだと、ほとんどのアメリカ人は賛同している」と書いた。
別の街の事件を
トランプ候補の発言に先駆けて、スプリングフィールドで移民がペットや子供を殺しているという偽の主張が1週間近く、共和党副大統領候補のJ・D・ヴァンス上院議員（オハイオ州選出）や、ソーシャルメディア「X」（旧ツイッター）を所有する大富豪イーロン・マスク氏らによって拡散されていた。
トランプ候補は10日夜に民主党のカマラ・ハリス候補と討論した際、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が住民のペットを「食べている」のだと主張。討論を主催したABCニュースの司会者が、そうした内容を裏付ける「信用できる報告はない」と現地当局は話しているとその場で指摘したものの、トランプ候補は「そう言ってる人たちをテレビで見た」と強調。さらに討論会の後にアリゾナ州で開いた支持者集会でも、同じ主張を繰り返した。
オハイオ州のマイク・デワイン知事（共和党）は12日、CBSニュースの質問に答えて、「これはインターネットから出てきた話で、インターネットは時々、頭がおかしくなることもある」と説明。現地スプリングフィールドのルー市長が「そのような事実はまったくないと話していて、私たちは市長の言うことを信じる。彼は自分の街をよく知っているので」と知事は述べた。知事は共和党穏健派で、トランプ候補の再選を支持している。
スプリングフィールドのルー市長は10日の記者会見で、「移民コミュニティーの人物によって、ペットが傷つけられたり、けがをさせられたり、虐待されたという内容の信頼できる報告や具体的な届け出は、まったく確認できていない」と述べていた。
市長は続けて、「猫が殺されたあるいは食べられたというニュースは、スプリングフィールドが出どころではない。それは実際には先月、動物虐待で逮捕されたキャントン市の女性に関することだ」と説明した。
現地報道によると、キャントン警察が逮捕した女性はアメリカ市民という。
オハイオ州キャントンは、スプリングフィールドから北東約200キロにある。
（英語記事 Trump vows mass deportations from town rocked by 'pet-eating' lies）
