米ワシントンを訪れたイギリスのキア・スターマー首相は13日、ホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領と会談した。その後の記者会見では、ウクライナがロシア国内の標的を攻撃するための長距離ミサイルの使用を許可するかどうかの決定について、明言を避けた。
ウクライナがロシアに長距離ミサイル「ストームシャドウ」を発射することを許可するようバイデン大統領を説得したのかと尋ねられたスターマー首相は、「皆さんの予想通り、ウクライナをはじめ、中東やインド太平洋など、多くの面で長く生産的な話し合いをした」と答えた。
ホワイトハウスによると、両首脳はこのほか「イランと北朝鮮がロシアに殺傷力のある兵器を提供することに深い懸念」を表明した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は先に、ウクライナがロシアに向けて長距離ミサイルを発射するのを許さないよう西側諸国に警告そのような動きは北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ戦争への「直接参加」を意味すると述べた。
一方、バイデン大統領はスターマー首相との会談に先立ち、「ウラジーミル・プーチンのことはあまり考えていない」と記者団に述べた。
これまでアメリカとイギリスは、事態のエスカレーション(激化)を恐れ、ウクライナに対し、ロシア国内の標的に対する長距離ミサイルの使用許可を与えていない。
しかし、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、西側同盟諸国に長距離兵器の使用許可を繰り返し求めており、それが戦争終結をもたらす唯一の方法だと主張している。
2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、ウクライナの都市と前線はロシアからの砲撃に毎日さらされている。
ウクライナの軍事拠点や住宅街、エネルギー施設、病院を攻撃するミサイルや滑空爆弾の多くは、ロシア国内の奥深くから出発している。
このためウクライナ政府は、ロシア国内の基地攻撃が許されないのは、自分たちの自衛力の妨げだとしている。
イギリスは以前、ウクライナにはイギリスから提供された武器を「自衛」のために使用する「明確な権利」があり、「ロシア領内での作戦も除外されない」と述べた。しかし、国際的に認められたウクライナ国境の外で、長距離ミサイル「ストームシャドウ」を使うこと、これに含まれない。
アメリカは今年に入ってウクライナに長距離ミサイルを提供したが、他の西側同盟国同様、ロシアの奥深くにある標的への使用は許可していない。
スターマー首相は、プーチン氏がNATOとの戦争の可能性をほのめかしていることに脅威を感じているか質問されると、ウクライナの戦争を「解決する最も早い方法」は、「プーチンが実際に何をするかにかかっている」と述べた。
首相は、ホワイトハウス会談はウクライナに関する戦略について話し合う機会で、「特定の措置や戦術についてのみ、話すわけではない」と述べた。
スターマー氏はまた、会談ではイスラエル・ガザ戦争が1年近くも続く中東情勢や、「世界中の他の地域」についても話し合ったと付け加えた。
その上で、来週開催される国連総会で、これらの問題について話し合う機会を設けると語った。
英米首脳会談に先立ち、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は13日、アメリカは、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領土を攻撃することに制限を設けているが、これを変更するつもりはないと発言した。
ロシアが英外交官を追放、米はロ報道機関に制裁
ロシア政府はこの日、イギリスの外交官6人を追放した。
ロシア連邦保安庁(FSB)は声明で、ロシアに「戦略的敗北」をもたらす出来事にイギリスが関与していることを示す文書を受け取ったと述べた。イギリス外務省は、この告発を「まったく根拠のないもの」として一蹴している。
イギリスの国防アナリスト、ジャスティン・クランプ氏はBBCの取材で、プーチン氏は英労働党の新政権と、来年初めに退陣するバイデン米政権を試していると語った。
「結局のところ、ロシアはすでにイギリスの敵対勢力に武器を供給しているし、NATO加盟国の利益に敵対する政府転覆工作、スパイ活動、破壊工作、情報・サイバー作戦といった『積極的な手段』を実施している」
クランプ氏は一方で、「しかし、ロシアがウクライナとの戦いでどれだけ苦戦しているかを考えれば、NATO全体にけんかを売るような余裕はないだろう」とも述べた。
一方、アメリカはこの日、ロシアの国営メディア「RT」に対する新たな制裁を発表。同メディアは「事実上、ロシア諜報機関の一部門」だと非難した。
アントニー・ブリンケン米国務長官は記者団に対し、RTはロシアの支援を受けたメディアネットワークの一部であり、秘密裏に「アメリカの民主主義を弱体化」させようとしていると述べた。
アメリカは、RTが国内の選挙に影響を与えようとしたとみている。これに対して、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「ロシア制裁の専門家という新しい職業が、アメリカに登場すべきだと思う」とソーシャルメディア「テレグラム」に書いた。
(英語記事 No new pledge on Ukraine missiles after Starmer-Biden talks