自民党の総裁選選挙は盛り上がって、9月12日の告示に、小林鷹之前経済安全保障担当相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安全保障担当相、加藤勝信元官房長官、上川陽子外相(出馬表明順)と9人が立候補した。
もちろん、裏金問題、外交安全保障問題が重要なことは承知しているが、ここでは筆者の専門である経済政策について、各候補者の政策を論評したい。曖昧なところは、これからの候補者相互の議論によって明確になっていくと期待している。また、各候補の主張は正確に理解するように努めたつもりだが、もしそうでないところがあればお詫びしたい。
国の行く末に経済は重要な問題
まず、多くの候補者が、経済が重要と唱えたことは喜ばしい。どのように経済を活性化するかの前に、まず経済が大事だと思わなければ経済が活性化するはずがない。
筆者は、経済が大事でないような発言をする政治家がいることが信じられない。まず人々に仕事があって、所得があって、そこから税金が入って来なければ何も始まらない。
小林氏は、「経済が財政に優先」、茂木氏は、「経済成長で見込まれる税収増」で防衛費、子ども政策のコストを賄える、防衛増税・子育て支援金の保険料追加負担それぞれ1兆円は停止すると主張。高市氏は、「経済成長をどこまでも追い求める。税率を上げずに税収を増やせる」、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)に関して「目標は自然に達成される」と述べた。加藤氏は、「国民所得を倍増する」と主張した。
といっても、どうしたら経済が活性化できるかは簡単ではない。加藤氏は、国民の所得倍増に向けて最低賃金1500円を前倒しで実現、2000円を目指して支援策を講じるというが、最低賃金を倍増することで、全体の所得が倍になるとは思えない。
小林氏は、新しい産業政策「シン・ニッポン創造計画」を唱え、林氏は、GX(グリーン・トランスフォーメ-ション)、DX(デジタル・トランスフォーメ-ション)、スタートアップ企業の支援、高市氏は、大胆な「危機管理投資」と「成長投資」、先端技術を開花させるための「戦略的な財政出動」などを唱えている。上川氏は、物価対策の強化、産業構造ビジョン、成長領域を特定して投資する、アニメ、マンガについて、世界トップの支援をすると述べた。クールジャパンの支援は良いが、官民ファンドのいわゆるクールジャパンファンドの散々な状況(ヒロ・マスダ『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』光文社新書、2020年、参照)をご存知なのだろうかと思ってしまった。
一方、河野氏は、民間主導の経済成長、成長阻害要因の除去、解雇規制を緩和して、正規と非正規の差をなくすという。小泉氏も、解雇規制の見直しなど労働市場改革の加速を唱えている。同時に、「年収の壁」の撤廃、労働時間規制の見直しなどを主張している。