アメリカのドナルド・トランプ前大統領を銃撃しようとしたとしてフロリダ州で男性容疑者が拘束された事件で、捜査当局は16日、容疑者は現場付近で長時間待ち伏せし、発砲はしなかったなどとする新しい情報を発表した。11月の大統領選の共和党候補となっているトランプ前大統領の暗殺を図ったとみられる事件は、この2カ月で2件目。大統領経験者らを守るシークレットサービス(大統領警護隊)による、警護強化を求める声が高まっている。
捜査当局によると、ライアン・ラウス容疑者(58)は15日、ウェスト・パーム・ビーチのゴルフ場「トランプ・インターナショナル・ゴルフ・クラブ」の6番ホール付近にある「フェンスの公用地側」の茂みで、照準器付きのSKS型自動小銃を持ち、約12時間待機していた。
トランプ前大統領との距離は約275〜460メートルまで縮まったが、姿を直接とらえる位置にはいなかったという。
茂みからライフルの銃身が突き出ているのを、シークレットサービス職員が発見。その約45分後に、高速道路上で容疑者を拘束したという。
連邦捜査局(FBI)は、容疑者が前大統領やシークレットサービス職員に向けて発砲することはなかったと発表した。また、他の人物と共謀したことを示す証拠は見つかっていないとした。
ラウス容疑者は16日、フロリダ州の裁判所に出廷し、重罪で有罪判決を受けたことのある人物による銃器所持と、シリアル番号が消された銃器所持の容疑で訴追された。25日にも出廷し、拘束が続けられるか審理される。
トランプ前大統領は、自分は安全で元気だと支持者らに述べた。また、シークレットサービスや警察などが「見事な仕事」をしたと感謝した。
警護の強化求める声
ジョー・バイデン大統領は16日、「シークレット・サービスにはもっと援助が必要だ」、「実際にもっと人員が必要なら、議会はそれに応じるべきだ」と話した。
パームビーチ郡のリック・ブラッドショー保安官は、トランプ前大統領が現職大統領と同レベルの警護は受けていないと説明。「もし受けていたら、このゴルフコース全体が包囲されていただろう」と述べた。
シークレットサービスのロナルド・ロウ長官代行は16日、前大統領のゴルフは事前に計画されたものではなく、職員にはほとんど知らされていなかったと述べた。
ロウ氏は、「(前大統領は)そもそも、あそこに行くことにはなっていなかったし、公式予定にもなかった」と説明。「警護計画をまとめ、それが機能した」と話した。
ロウ氏はまた、7月のトランプ前大統領暗殺未遂事件を受け、バイデン氏が大統領候補の警護態勢の拡充を承認していたと付け加えた。狙撃手、対襲撃チーム、ドローン(無人機)などを追加するもので、15日にも出動していたとした。
連邦議会では与野党議員の一部から、大統領候補は現職大統領と同レベルの警護を受けるべきだとの声が上がっている。共和党のトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州)は、そのための法案を提出するとしている。
シークレットサービス元職員のバリー・ドナディオ氏はBBCに、トランプ前大統領は大統領候補なので他の大統領経験者よりも厳重な警護が必要だとし、態勢を見直すべきだとの考えを示した。
7月にペンシルヴェニア州であった前大統領の暗殺未遂事件については、シークレットサービスのキンバリー・チートル長官が辞任した。チートル氏は、警護をめぐって過去数十年で「最も深刻な不備」があったと認めていた。
バイデン氏とハリス氏を非難
トランプ前大統領はFOXニュースとのインタビューで、今回の事件に関し、バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領を非難した。
前大統領は、「(容疑者は)バイデンとハリスの発言を信じ、それに基づいて行動した」と証拠を示さずに主張。「両者の発言が私への銃撃を引き起こしている」、「私がこの国を救おうとしている時に、向こうはこの国を破壊しようとしている。国の内からも外からも」と述べた。
一方、バイデン氏は、トランプ前大統領が無傷で「ほっとしている」と述べた。そして、「前大統領の継続的な安全を確保するために、シークレットサービスが必要なあらゆる資源、能力、警護手段を確保し続けるようチームに指示した」と付け加えた。
ハリス氏は、今回の暗殺未遂事件に「深く心を痛めている」とし、「トランプ前大統領が無事で感謝している」と述べた。また、「この出来事がいっそうの暴力につながらないよう、私たちは全員、自分の役割を果たさなければならない」とした。
(英語記事 Pressure on Secret Service as Biden says agency 'needs more help'/Live Reporting)