米捜査当局は15日、フロリダ州パームピーチ郡のゴルフ場でプレーしていたドナルド・トランプ前大統領を銃撃しようとした疑いで、男を拘束したと発表した。トランプ前大統領は「安全で無事だ」と支持者へのメールで書いた。カマラ・ハリス副大統領は、トランプ前大統領の無事を喜ぶとともに、暴力を非難する声明を出した。
捜査当局によると、ゴルフをしていた前大統領の近くで午後1時半(日本時間16日午前2時半)ごろ、茂みの間からライフル銃の銃身がのぞいているのを米大統領警備隊(シークレットサービス)が発見し、そこにいた男に向かって発砲した。連邦捜査局(FBI)によると、共和党大統領候補のトランプ前大統領がいた場所から、男がいた場所の距離は、約275~455メートルだったという。
その後の捜査でゴルフ場の茂みからは、自動小銃AK−47式の銃と照準器、2つのバックパックと超小型アクションカメラ「GoPro」が見つかったという。
目撃者によると、容疑者は茂みから走り去り、黒い乗用車に乗り込んだ。シークレットサービスは男に向かって数回、発砲したという。目撃者は、この車やナンバープレートの写真を撮影した。
パームビーチ郡のリック・ブラッドショー保安官は記者会見で、ゴルフ場の北にあるマーティン郡保安官事務所に連絡したと説明。「マーティン郡の当局が車両を発見し、停車させ、男を拘束した」のだと話した。
保安官によると、ゴルフ場の目撃者にマーティン郡まで同行してもらい、「茂みから走り出て車に飛び乗った男だと確認してもらった」のだという。
ブラッドショー保安官によると、ゴルフ場では1ホールずつトランプ候補の前を移動するシークレットサービスの警備担当がおり、その警備担当が「フェンスからのぞくライフルの銃身に気づき、ただちにその人物に立ち向かったところ、その人物が逃走した」のだという。
FBIはソーシャルメディア「X」への投稿で、「トランプ前大統領に対する暗殺未遂とみられる事案を捜査している」と書いた。
シークレットサービスのマイアミ事務所代表、ラファエル・バロス特別捜査官は記者団に、7月にペンシルヴェニア州で起きた前回の暗殺未遂事件以来、警備体制を強化していると説明。「脅威の危険レベルは高い」と話した。
容疑者は
複数の当局者はBBCがアメリカで提携するCBSニュースに、容疑者の名前は「ライアン・ウェスリー・ラウス」だと話している。58歳だという。
シークレットサービスや国土安全保障省の捜査員は15日夜、ノースカロライナ州グリーンズボロにあるラウス容疑者の元自宅を捜索した。
捜査筋の話としてCBSが伝えたところによると、軍隊経験のない容疑者は2002年から2010年にかけてノースカロライナ州ギルフォード郡で、武器を隠して携行した罪、公務執行妨害罪(逮捕に抵抗)、ひき逃げや取り消された運転免許を所持して運転した罪、盗品所持の罪などで有罪になっている。
容疑者の長男はCNNに対して、「愛情深い優しい父親で、正直で勤勉な人」だとテキストメールでコメント。「フロリダで何が起きているのかわからない。話が大げさにふくらんでいないといいが。わずかに聞いた内容からすると、こんな狂ったことを、ましてや暴力的なことをするなんて、自分が知っている人とは思えない」と述べた。
BBCヴェリファイ(検証チーム)のマイク・ウェンドリング記者によると、現場で撮影された容疑者とされる写真と外見がよく似ている同名人物のソーシャルメディアのアカウントを見ると、ウクライナとロシアの戦争について、ウクライナを積極的に支持していた様子がうかがえる。外国人兵士をウクライナへ送り込もうとする活動にかかわっていたもよう。さらに、親パレスチナ、親台湾、反中国の内容の投稿もあり、新型コロナウイルスの拡散をめぐり中国の「攻撃」だと非難する内容もあった。
ラウス容疑者は2023年3月に米紙ニューヨーク・タイムズの電話取材に対して、ウクライナでの戦争を支援するため、アフガニスタンのタリバン政権を逃れたアフガン兵をウクライナに送り込みたいのだと話していた。今年7月のフェイスブックへの投稿でも、「ウクライナ政府にアフガン兵を受け入れさせようと、引き続き取り組んでいる」のだと書いていた。
2020年6月の時点で、当時のトランプ大統領にあてて「自分は2106にあなたを選んだが、トランプ大統領になれば候補から変わってもっと良くなると自分も世界も望んでいたが、みんなとてもがっかりしたし、あなたはどんどん悪くなって劣化しているようだ」、「あなたがいなくなったらうれしい」と当時のツイッター(現「X」)に書いた投稿も浮上している。
ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団はBBCに対して、ラウス容疑者は同軍団と何のかかわりもないと話した。
英紙フィナンシャル・タイムズなどの報道から、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった後、当時56歳の容疑者はウクライナの外国人部隊に志願しようと向かったものの、拒否され、その後は首都キーウのマイダン広場にしばらくいたことが分かっている。自分はノースカロライナ州出身だが、現在はハワイに住んでいると当時話していた。
「安全で無事」とトランプ候補
トランプ候補は支持者へのメールで、自分は「安全で無事」だと説明。「何も私を失速させない」、「私は絶対に降伏しない!」と書いた。
トランプ候補と話をした人たちによると、前大統領は「元気」で、ゴルフを最後のラウンドまで続けられたらよかったのにと冗談も口にしていると、CBSニュースは伝えた。さらに、シークレットサービスの対応に感謝し、各地の支持者集会に予定通り出席する意向という。
ホワイトハウスは、ジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領は事件発生の報告を受けたと発表。「(トランプ候補が)無事だと知って、二人ともほっとしている。引き続き最新状況の報告を受け続ける」とした。
民主党の大統領候補、ハリス副大統領は事件の報告を受けたと「X」で明らかにし、トランプ候補が「無事でうれしい」と書いた。さらに、「アメリカで暴力があってはならない」と強調した。
民主党の副大統領候補、ミネソタ州のティム・ウォルズ州知事も「X」で、「ドナルド・トランプが無事だと聞いて、(妻の)グウェンと私は喜んでいる。この国に暴力があってはならない。私たちはそういう国ではない」と書いた。
ハリス副大統領はこの後さらにホワイトハウスを通じて、「トランプ前大統領に対する暗殺未遂だった可能性のある事件を、非常に懸念しています」と声明を発表した。
「事実関係を得ている最中ですが、はっきり言います。私は、政治的暴力を非難します。この事件がこれ以上の暴力につながらないよう、私たち全員がやるべきことをやらなくてはなりません」
「トランプ前大統領が無事で感謝しています。私はシークレットサービスおよび提携する捜査当局の、警戒態勢をたたえます。バイデン大統領が述べたように、シークレットサービスがその不可欠な重要任務を果たすために必要なあらゆるリソースと能力と保護能力をもつよう、この政権はしっかりと対応します」
トランプ候補は7月13日、ペンシルヴェニア州の支援者集会で発砲され、負傷している。会場近くの建物の屋根からAR15で前大統領に向けて発砲したトマス・マシュー・クルックス容疑者はその場で射殺された。
(英語記事 Trump rushed to safety and suspect held after man spotted with rifle / Trump targeted in apparent assassination attempt at golf course, says FBI / What we know about the Trump attack and the suspect)