2024年11月21日(木)

いま、なぜ武士道なのか

2024年9月16日

 2024年8月、岸田総理大臣が自民党総裁選挙に立候補しない意向を表明。後任を選ぶ自民党総裁選挙では、推薦人を必要とする1972年以降過去最多となる9人が立候補した。候補者が乱立している背景には、派閥の解消により自由度が高まったことが大きく関わっているだろう。
 日本の総理大臣を選ぶことにもなる重要な総裁選挙だが、リーダーにとって重要なスキルのひとつに「決断力」がある。この決断力を磨くにはどうしたらよいのだろうか。武士道の時代の決断のコツにヒントを求めてみよう。2009年9月25日に掲載した『「葉隠」的 決断力の磨き方』を再掲する。

 議論を尽くせば考えは深くなる。しかし、考えすぎも長いとかえって思案を腐らせる。下されるべき時機にその判断が下されることのほうが、時として大切である。
『葉隠』は、「十言を一言で」「七息思案」など具体的な方法で決断のために意識を変えることを薦める。つまり要点を押さえて相手に伝えることや、伝える時機を逃さないことを説く。

(metamorworks/shutterstock)

十言を一言で言おう

 対話・討論ということが、最近特にやかましくいわれている。それは、相互理解を深めるために重要ではある。しかしそれが万能薬であるとはいいきれない。もう一度原点に立ちかえって考えてみる必要がある。 

奉公の心がけをする時分、内にても外にても膝を崩したる事なし。物をいはず。言はで叶はざる事は、十言も一言で済ます様にと心がけしなり。山崎蔵人などかくの如きなり。

(現代語訳)
奉公の修行をしていた頃、内でも外でも膝を崩したことはなかった。物もいわず、どうしてもいわなければならない時は、十言を一言ですますように心がけたものである。山崎蔵人などはこのような人物であった。

 言論の自由ということは、おしゃべりの自由ということではない。この自由をあまりにも浪費をしすぎるために、ホンネが伝わらないことがある。

 人間関係をよくするという美名のもとに、おしゃべりが多すぎ肝心な仕事がおろそかになることさえある。以心伝心、つまり口でいわなくとも心が通じる工夫というものが大切である。

 十言を一言ですますことは、能率がよいばかりでなく正確なものである。短くして、しかもいうべきことをいうには、相手の意見をよく聞かなければならない。その態度から一種の風格も出て説得力も生まれてくる。その逆に、おしゃべりが多すぎると、枯葉のざわめきのように、かえってうとんじられ説得力を欠くものとなる。リーダーにはいうべき時と、いわざる時の心得も必要である。


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