日本の総理大臣を選ぶことにもなる重要な総裁選挙だが、リーダーにとって重要なスキルのひとつに「決断力」がある。この決断力を磨くにはどうしたらよいのだろうか。武士道の時代の決断のコツにヒントを求めてみよう。2009年9月25日に掲載した『「葉隠」的 決断力の磨き方』を再掲する。
議論を尽くせば考えは深くなる。しかし、考えすぎも長いとかえって思案を腐らせる。下されるべき時機にその判断が下されることのほうが、時として大切である。
『葉隠』は、「十言を一言で」「七息思案」など具体的な方法で決断のために意識を変えることを薦める。つまり要点を押さえて相手に伝えることや、伝える時機を逃さないことを説く。
十言を一言で言おう
対話・討論ということが、最近特にやかましくいわれている。それは、相互理解を深めるために重要ではある。しかしそれが万能薬であるとはいいきれない。もう一度原点に立ちかえって考えてみる必要がある。
奉公の心がけをする時分、内にても外にても膝を崩したる事なし。物をいはず。言はで叶はざる事は、十言も一言で済ます様にと心がけしなり。山崎蔵人などかくの如きなり。
(現代語訳)
奉公の修行をしていた頃、内でも外でも膝を崩したことはなかった。物もいわず、どうしてもいわなければならない時は、十言を一言ですますように心がけたものである。山崎蔵人などはこのような人物であった。
言論の自由ということは、おしゃべりの自由ということではない。この自由をあまりにも浪費をしすぎるために、ホンネが伝わらないことがある。
人間関係をよくするという美名のもとに、おしゃべりが多すぎ肝心な仕事がおろそかになることさえある。以心伝心、つまり口でいわなくとも心が通じる工夫というものが大切である。
十言を一言ですますことは、能率がよいばかりでなく正確なものである。短くして、しかもいうべきことをいうには、相手の意見をよく聞かなければならない。その態度から一種の風格も出て説得力も生まれてくる。その逆に、おしゃべりが多すぎると、枯葉のざわめきのように、かえってうとんじられ説得力を欠くものとなる。リーダーにはいうべき時と、いわざる時の心得も必要である。