2024年11月22日(金)

いま、なぜ武士道なのか

2024年4月25日

 入社、転職、異動など、春は新しい環境に身を置く人が増える季節。期待を持ちつつ不安も拭い切れないこの時期だからこそ、ビジネス社会を切り抜けるための処世術を身につけておくことは大切だろう。時に上司を立て、時に部下を激励し、組織の中で生き抜いていくための方法は、今も昔も変わらない。
 300年前の江戸時代に世に出た、現代のビジネスパーソンのバイブルともなり得る武士の心構えとは? 『いま、なぜ武士道なのか―現代に活かす『葉隠』100訓』の中から、今こそ読んでほしい処世訓を紹介していく。第1回は2009年8月15日に掲載した『生きる力をくれる『葉隠』』を再掲する。
(metamorworks/gettyimages)

 300年以上も前、佐賀鍋島藩のふたりのサムライによって書かれた『葉隠』。懸命に生きることを説くメッセージを主軸に、その内容は組織に属する人々の心構えにも及び、上司からの酒の誘いを上手に断る方法や、部下の失敗をフォローする方法など、現代のビジネスパーソンにも通じる処世訓も多く含まれ、金科玉条とすべき教訓に満ちているのです。

 この「序」を皮切りに始まる連載では、永い風雪に耐えてきた『葉隠』が伝えるメッセージを、現代のビジネスパーソンに向けて披露します。

現代のビジネスシーンに通じる処世訓の数々

 先ごろ、酒酔いで大臣を辞任した閣僚がおりました。優秀な人物ではあったのでしょうが、こういう醜態をさらしてしまえば帳消しになります。まことにもったいないことです。こうしたことは例外ではなく、多くの人が経験していることでしょう。

 『葉隠(はがくれ)』と聞くと、古いイメージをもたれる方が多いかもしれませんが、事実はまったく違います。「酒席の章」を読んでいただければそのことがわかります。ここを読んで実践していたなら、「大臣の辞任」はおそらくなかったでしょう。つまり、酒席での戒めが懇切丁寧に書いてあるからです。

酒盛の様子はいこうあるべき事なり。心を附けてみるに、大方飲むばかりなり。酒というものは、打ち上がり綺麗にてこそ酒にてあれ、気が附かねばいやしく見ゆるなり。大方、人の心入れ、たけだけも見ゆるものなり。公界物なり

(現代語訳)
酒盛の仕方はきびしくしなければならない。気をつけてみると、たいていの者はただ飲むだけである。酒とは、切り上げがきれいにしてこそ酒である。ここに気がつかないと卑しくみえるものである。だいたい人の心がけは、そのまま表れる。酒の席はすべて公の場と考えればよい。

 「公界物(くがいもの)」とは公の席といった意味です。酒席の心得について語った項です。これほどの古典に、これほど懇切丁寧な忠告は稀です。酒席は新年のお屠蘇(とそ)から始まって師走の忘年会まで、数限りなくあります。だからこそハメをはずすことがあります。


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