2024年10月3日(木)

WEDGE REPORT

2024年10月3日

 筆者も主催者をよく知る世界最大の「ジャパン・エキスポ」は三人の「オタク」のフランス人青年たちが小学校の教室ではじめた日本展が始まりだ。それよりも百年前には陶器の箱に入った緩衝材として使われていた和紙に描かれていた浮世絵の美術的質の高さに衝撃を受けて、日本の芸術性を世界に喧伝し、「ジャポニズム」の世界的ブームの火付け人になったのはフランスの印象派の人々だった。

 天皇誕生日にミレイユ・マチューが大使公邸に来ていたのは、当時の日本ブームに誘われたことが背景にあることは確かだ。日本文化が彼女を大使公邸に誘った。アラン・ドロンにとってミレイユに会うことが第一の目的ではあったが、日本文化への親しみが彼を大使公邸に引き寄せたことも間違いない。

「クールジャパン」に物語はあるのか

 たしかに日本文化は世界に存在感を持っている。それをどこまでわたしたちは日本文化のコンテンツとして世界に発信できるのか。それを外交にどれだけ貢献させることができているのか。日本の国家ブランド戦略としてどこまで位置付けられているのか。

 文化に普遍性を与え、ブランド化してしまう。コンテンツの背景にはそうした人々が自分たちの共通性や普遍性を共有しうる、文脈づくりと物語が必要だ。

 世界的に有名な歌手と銀幕のスターが会場で輪舞を踊り、彼が和服の日本女性の前でひざまずく。そこには無数の物語が生まれそうだ。

 そして人々はそれをフランスの文化だと思い、それに共感する自分を見出して安心し、豊かな気持ちになる。そこにはアメリカが力と財力と知恵を絞ってもなかなか達成しえないものがあるのだというと、フランスを持ち上げすぎだろうか。

 翻って、「クールジャパン」、「ネオジャポニズム」。フランス人ならどこまでも物語を作りそうだが、さて我々は自分たちのストーリを国家ブランドとして物語り、発信することができているのだろうか。

 これは文化の発信力というだけではない。普遍的世界観と物語を語ろうとする意志、つまり世界に真剣にコミットし、その解決のための議論の場をこころから共有しようとする意志を不可欠とする。

 そうした真の意味での国際的普遍主義に正面から立ち向かう意思を基礎とする外交の力量にかかっているのではないだろうか。そしてそれを体現するのは一人ひとりの個人であることも大きなポイントだ。

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