10月末の集中豪雨による死者が200人以上確認されたスペイン東部で3日、現地を訪れた国王夫妻に住民が泥などを投げつけ、「人殺し」「恥を知れ」など叫ぶ事態が起きた。国王夫妻はその後、顔や服に泥がついたまま、集まった市民を慰めていた。
スペイン国王フェリペ6世とレティシア王妃はこの日、豪雨被害が多く確認されたバレンシア州の中でも、特に甚大な被害が出ているパイポルタの町を、ペドロ・サンチェス首相やカルロス・マゾン州首相と共に訪れた。
被災地では洪水への早期警報や事後支援が不十分だと、住民が当局を強く非難している。
国王夫妻が道を歩いていると、激しく抗議する人たちが警備や警察を押しのけて夫妻に近づいた。一部の抗議者が泥などを投げつける中、警備陣が国王夫妻を囲んで守ろうとした。
国王夫妻は抗議する住民たちと言葉を交わし、抱きしめるなどしていた。
現場の映像では、国王夫妻や政府幹部の顔や服に泥がついている様子が見える。
スペイン・メディアによると、サンチェス首相にも物が投げつけられた。BBCが確認した映像では、首相を乗せた車が現場を離れようとするなか、石も投げられていた。
首相がいなくなると、集まった人たちは「サンチェスはどこだ」と連呼していた。
パウさんという少年はBBCに対して「僕はまだ16歳」だと言い、「みんな手伝っているのに、リーダーたちは何もしない。大勢がまだ死んでいるのに。もう耐えられない」と涙ながらに話した。
別の女性はBBCに、「連中は、私たちをほったらかしにした。私たちが死んだってかまわないんだ。何もかも失ったのに。商売も自宅も夢も」と話した。
この後、怒りをあらわにする群衆を解散させるため、騎馬警官や治安警備隊が現場に入り、事態を鎮めようとした。
国王、怒りといら立ちに理解
国王夫妻の一行は、パイポルタの次にはバレンシア州でやはり洪水被害が深刻な町チバを訪れる予定だったが、予定は延期になった。
国王はのちに、抗議した人たちの「怒りといら立ち」は理解できると話した。インスタグラムの王室公式アカウントに動画が掲載された。
パイポルタのマリベル・アルバラト町長はBBCに対して、暴力はショッキングだが「住民のいら立ちと絶望」は理解すると話した。
バレンシア州議会のフアン・ボルデラ議員は、国王の訪問は「非常にまずい判断」だったと指摘。当局は「警告をまったく聞き入れなかった」のだと、BBCに話した。
「住民が怒るのは当然だ。国王の訪問をなぜこれほど急ぐ必要があったのか、住民が理解しなかったのは当然だ」とボルデラ氏は述べた。
サンチェス首相は2日、災害救助支援のためバレンシア州に兵士や警官や治安警備隊を1万人増派すると指示した。これは平時のスペインでは最大規模の派遣だとしたいう。その上で首相は、対応が「不十分」で「深刻な問題」があり、人手も物資も不足していると認めた。
スペイン東部では激しい集中豪雨ののち、10月29日から浸水が始まった。複数の橋が破壊され、多くの町村が大量の泥で覆われた。水や食料、電気の供給が途絶え、複数のコミュニティが孤絶した。
確認された死者数は3日の時点で217人に達した。さらに増えると懸念されている。
死者のほぼ全員が、バレンシア州に集中している。
国王一行が訪れた町パイポルタは特に被害が深刻で、少なくとも62人の死亡が報告されている。
(英語記事 Spain's king and queen pelted with mud in flood-hit Valencia)