アレックス・マクシア、(スウェーデン・ヨーテボリ)
スウェーデン政府は18日、何百万人もの国民に対し、戦争や予期しない危機が生じた場合について、備えと対処方法に関する助言をまとめた、新しいパンフレットの配布を開始した。
「もし危機や戦争が起きたら」と題したパンフレットは6年前にも配布されたが、最新版はサイズが2倍になっている。スウェーデン政府は安全保障状況の悪化、つまりロシアによるウクライナ全面侵攻を受けて、パンフレットの内容を更新した。
隣国フィンランドの政府もまた、「異変と危機への備え」に関する独自の新しい助言をオンライン上で発表したばかり。
ノルウェー政府も最近、異常気象や戦争やその他の脅威発生から1週間は自力で何とかするため、備えをしておくようにと呼びかけるパンフレットを国民に配布した。
フィンランドのデジタル・パンフレットは、軍事衝突が起きた場合について、細かく説明している。武力衝突が起きた場合に政府と大統領がどう対応するか詳述するほか、当局が「自衛のために十分な備え」をしていることもパンフレットは強調している。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、フィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を申請し、フィンランドは昨年4月に加盟が実現した。スウェーデンは今年3月に加盟したばかりだ。ノルウェーはこの西側防衛同盟の原加盟国のひとつ。
フィンランド政府はパンフレットの配布には「何百万ユーロもかかる」ほか、デジタル版の方が更新しやすいことを理由に、スウェーデンやノルウェーのように印刷したものを各家庭に配ることはしなかった。
気候変動などでリスク増加
ノルウェーの国民保護総局(DSB)のトーレ・カムフィヨルド氏は、「各家庭に1部ずつ、合計220万部を発送した」と語った。同氏は、国民がそれぞれ危機に備えるよう推進するキャンペーンの責任者。
いざという時のために各自が自宅で備えるべきものとして、ノルウェー政府が挙げる品目には、豆の缶詰やエナジーバー、パスタといった長期保存が可能な食品や、原発事故を想定したヨウ素剤などの医薬品が含まれる。
同政府は2018年にも、一つ前のバージョンのパンフレットを国民に送っている。しかし、カムフィヨルド氏によると、気候変動や、洪水や地すべりといった異常気象が増加したことで、今は以前よりもリスクが高まっているという。
「攻撃されても諦めない」
スウェーデン国民にとっては、市民向け緊急事態冊子の配布は目新しいことではない。「もし戦争が起きたら」という冊子の初版は第2次世界大戦中に作成され、冷戦時代にも内容が更新された。
かつて冊子の中ほどに掲載されていたメッセージが、今回は前の方に移されていた。「スウェーデンが他国から攻撃されても、私たちは決して諦めない。抵抗をやめろと促す情報は、すべて偽りだ」というのが、その内容だ。
フィンランドとスウェーデンのインフラと「総合防衛システム」は冷戦時代のものだが、両国はつい最近まで中立政策を堅持していた。
スウェーデンのカール=オスカル・ボーリン民間防衛相は先月、世界情勢が変化したことから、スウェーデンの一般家庭向けの情報にもその変化を反映しなければならないと述べた。
ボーリン氏は今年1月の時点で、「スウェーデンで戦争が起こるかもしれない」と警告していたが、当時は「総合防衛」再構築の動きが遅すぎると感じてあえて警鐘を鳴らしたものと受け止められていた。
「戦争は起こり得る」という意識
ロシアと長い国境を接し、第2次世界大戦で旧ソヴィエト連邦との戦争を経験したフィンランドは、常に高水準の防衛を維持してきた。一度はインフラを縮小したものの、近年になって再び強化を開始した。
「フィンランドから見れば、これは少し奇妙なことに思えるはずだ」と、スウェーデン防衛大学のイルマリ・カイヒコ戦争学准教授は言う。
「(フィンランドは)戦争は起こり得ると、決して忘れたことがない。それに対してスウェーデンでは、それが実際に起こり得るのだと国民に理解させるため、国民を少し揺さぶる必要があった」のだと、フィンランド出身の准教授は指摘する。
フィンランド出身でスウェーデン・ヨーテボリで学ぶメリッサ・イヴ・アヨスマキ氏(24)は、ウクライナで戦争が起きて、自分の不安が増したと話す。「今はそれほど心配していないが、戦争が起きたらどうしようという思いは今も頭の片隅にある。特にフィンランドには家族がいるので」。
フィンランドのパンフレットは、いくつかのシナリオを想定し、危機的状況に陥った場合に少なくとも当面の間は自力で生きていけるようにしておくよう国民に求めている。
フィンランドでは冬になると、気温がマイナス20度にまで落ち込む。停電が数日続いたらどう対処するのかなどを、パンフレットは国民に問いかけている。
国民にはヨウ素剤のほか、簡単に調理できる食料、ペットフード、予備電源などの備えも呼びかけている。
発生後72時間分の食料・水を
一方でスウェーデン政府は、ジャガイモやキャベツ、ニンジン、卵に加えてボロネーゼソースの缶詰、ブルーベリーとローズヒップのスープなどを、用意しておくよう奨励している。
スウェーデンのエコノミスト、インゲマル・グスタフソン氏(67)は、旧バージョンのパンフレットを受け取った当時をこう振り返る。「私は事態をそれほど心配していないので、かなり冷静に受け止めている。どう行動すべきか、どう備えるべきか、情報を得るのはいいことだが、全部を自宅で用意しているわけではない」。
最も重要な助言の一つは、発生から72時間分の食料と飲料水を確保しておくことだ。
しかし、これは全ての人にとって現実的なことなのか。前出のカイヒコ准教授は疑問視している。
「大家族で狭いアパートに住んでいる場合、一体どこにしまっておけばいいのだろう」
(英語記事 Nordic neighbours release new advice on surviving war)