ファイサル・イスラム経済編集長
「ドナルド・トランプ次期米大統領は、関税について本気なのか?」。この疑問が世界の市場だけでなく、経済全体に広がっている。
トランプ氏はそれほど真剣ではない――。関税については、そうみていた人が多かった。次期政権の財務長官にヘッジファンド投資家のスコット・ベッセント氏を指名したのが、その主な証拠とされた。同氏は関税に関して、他の候補より穏健派と考えられていた。
しかし一夜にして、かなり残酷な現実が明らかになった。トランプ氏は本気だったのだ。しかもまったく予期せぬ行動で、そのことを示した。大統領選の期間中に発した脅しの中で最も非現実的と思われたものを実行に移すと宣言し、メキシコ、カナダ、そして中国をターゲットに選んだのだ。
トランプ氏はまず、自らが大統領1期目に署名したメキシコ、カナダ、アメリカによる貿易協定を、2期目の就任初日に破棄する考えだ。
トランプ氏が中心となって作ったこの自由貿易協定は、新たな米政権がパートナー国に関税をかけるのであれば、意味をもたなくなる。
関税措置の根底にあるのは
重要なのは、こうした動きの根底にある主なものは、貿易でも経済政策でもないということだ。関税の大きな目的は、メキシコ、カナダ、中国の各国に、移民や違法薬物の取り締まりに関して政策を変更させることなのだ。
トランプ氏は関税を、世界貿易とは完全に無関係の問題で、外交や、場合によっては強制の武器として使っている。
では、それぞれ独自の問題を抱える主要20カ国・地域(G20)の指導者たちは、抵抗もせずに、トランプ氏に屈するのだろうか?
選択肢の一つとして、アメリカの輸入品の5分の2に対して25%の関税をかけるというトランプ氏の措置が、同国の消費者とインフレに不可避の影響を与えるのを待つ、というものもある。
トランプ政権1期目のアメリカでは、洗濯機が平均12%、価格にして約86ドル(約1万3000円)値上がりした。外国製の洗濯機に50%の関税を課したからだった。こうした価格上昇は、それがいかに控えめだろうと、生活費を引き下げるというトランプ氏の選挙公約に反する。
米国民は物価上昇に対し、2018年当時より敏感になっている可能性がある。とはいえ、関税への政治的な欲求を過小評価すべきではない。
ジョー・バイデン大統領は、トランプ氏が1期目に中国からの輸入品に課した関税を批判した。しかし、自身が大統領に就任すると、それを維持し、対象を拡大すらしている。
まだ始まりに過ぎない
いま明らかなこととして、トランプ氏がベッセント氏を財務長官に指名したからといって、関税引き上げの動きが弱まるわけではないということもある。
ベッセント氏は指名争いの最中、アレクサンダー・ハミルトン初代財務長官が先鞭をつけた、「道具としての関税の威力」をわざわざ認める発言をした。
一方、それより前には、関税は戦術的に使えるかもしれないが、アメリカの製造業再生の主な手段はドル安だろうとも示唆していた。
ヨーロッパとイギリスは今のところ、関税の標的にはなっていない。だが、今回の動きはトランプ氏が掲げた関税政策の一部でしかないことを、再確認するのは重要なことだ。
トランプ氏は、世界経済の地図を根本的に変え、中国とヨーロッパの対米貿易黒字を削減したいと思っている。貿易で「アメリカが食い物にされている」と考えている。
しかし、現在の世界はこうした二元的な経済関係よりもはるかに複雑だ。アメリカには、世界貿易のバランスを再び取るのに十分な力が間違いなくある。
だがアメリカが、特にG7(主要7カ国)やG20の友好国との関係において物事を過度に推し進めれば、あまりに孤立してしまうことになるだろう。
(英語記事 Trump proves he is serious on tariffs - but it's not about trade)