家族だけで始めない
「介護現場は猛烈に忙しいと聞いているし、母はまだ介護が必要な状態ではない。しかもお邪魔するのに予約がいるかどうかもわからない。まず電話をしてみたんですが、タイミングが悪いのか誰も出ない。そんなところにいきなり押しかけていいものか、本当に悩みました」
悩みの根底には、「家族のことなのに公の支援を仰いで本当にいいのかな」という罪悪感があったという。
しかし結果から言ってしまうと、山中さんは久しぶりの帰省時に思い切って包括を訪ね、スタッフに母親の情報を伝えた。そのおかげで、本当に助けが必要になったときに、トラブルを回避することができた。
「包括に早めにつながっていたおかげで、母が不安定な行動を始めた際に、東京からすぐに包括に電話をして、要介護認定(→注1)を受ける準備を進めることができました。さらにその後、母が玄関先で倒れた際に“ケアマネさん”(→注2)が車椅子を用意して駆けつけてくれて、急場をしのぐことができたのです」(山中さん)
山中さんの場合は、遠距離で一人暮らしをする母親について包括に連絡を入れたが、親の住まいが遠距離でなくても、親が一人暮らしでなくても、(なんなら今現在同居していても、)包括には連絡を入れたほうがいいと川内さんは主張する。
「早く包括に連絡を入れておくと、困ったとき即座にアクセスできるところがあるというメリットを得られるだけでなく、家族だけで対応してしまうリスクを回避することができます」
サポートは最初からが大事
介護は「これくらいなら(家族でも)できる」ということの連続だろうから、ついつい家族でいろんなことを行い始めてしまうかもしれない。しかし、それがエンドレスに積もっていったらどうだろう? ひとつひとつは小さなことでも、だんだんと重荷になってしまうのではなかろうか。
しかも、いつどこでなにが大事化するか、誰にもわからないのが介護だろう。ならば、「いつかは外部の手を入れるだろう」とうっすら考えている人でも、家族だけで始めてしまったら、その「いつか」をいつするかの判断ができづらくなってしまうのではなかろうか。特に、親の希望を「想像」してしまう人なら、なおのこと……。
「私は企業に勤める方々の介護相談に乗っているのですが、仕事ができる人ほどご自身や家族だけで頑張ろうとなさいます。しかし、すべてを自分でやりきるのは実際には不可能ですから、介護が理由となり、様々なことが破綻したり、人間関係に亀裂が入ることも珍しくありません。
また認知症に関しても、初期から手が打てれば、包括がやっている自立支援のサポートを使えるので、親御さんの健康な時間をできるだけ延ばしつつ、ご本人に合ったサービスや施設を紹介できます。その機会を失ってしまうと、本人のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)も下がるし、ご家族の負担も増すし、行政にも負荷がかかる……であれば、やっぱり包括に早く相談したほうが行政にとっても、保険財政にとってもいいし、利用者さんやそのご家族にとってもプラスになるんです」(川内さん)
次回は、さらなる「準備」について、引き続き、お二方に伺う(続く)。
注2)「ケアマネ」とは、介護保険法に基づき要介護認定を受けた人に対してケアマネジメントを行う専門職「介護支援専門員」のこと。ケアマネージャー、ケアマネと言われる。