JCのメンバーは地場産業や士業が比較的多く、観光産業は比較的少ない。このインバウンド観光プロジェクトの中核メンバーに観光経験者はゼロであった。ゼロからこのテーマに取り組んだメンバーは「アドベンチャーツーリズム(Adventure Tourism, 以下AT)」に着目し、旅行事業を学び、それを全国組織に展開しフォーラムやセミナーを通じて延べ1万2000人以上が観光分野の可能性を探った。
ATは、旅行者が自然や文化、アクティビティを通じて地域独自の体験を楽しむ旅行形態である。「アクティビティ」「自然」「文化体験」の3要素のうち、2つ以上を組み合わせることで成立する。
旅行者は「自己変革」や「視野を広げる」といった目的意識が高く、訪問地での深い体験を求めるという需要に応えるもので、特筆すべきはその地域への経済効果である。マスツーリズムは消費額の20%以下が地域経済に貢献するとされるのに対し、ATは消費額の65%が地域に残ると言われている。
経済効果の高いATだが、これはいわゆる風光明媚な観光地を見て回るタイプの観光商品ではなく、観光とは必ずしも関係のない“非観光事業者”を巻き込む必要性が出てくるという点で難易度が高い。そもそも自分の地域にどのような観光価値を持った潜在的な文化・活動資源があるかも見いだせていない場合が多いだろう。
JCのメンバーは1年で全国60以上の地域で「インバウンド戦略会議」を立ち上げ、観光事業者のみならず非観光事業者や地域住民を巻き込む新たな組織体制を構築したのだ。全国のメンバーが活動できるように地域資源の潜在的な観光価値を評価する「ATチェックリスト」を作成。自然、文化、アクティビティ、食文化といった地域資源を評価し、観光プランを策定するための指針を提供し、それを全国大会の場でレクチャーした。チェックリストを活用することで、各地域が独自の観光資源を発見し、魅力的な観光プランを企画することが可能となってくる。
全国各地で企画されたモニターツアー
策定された観光プランは、モニターツアーとして実施され、参加者からのフィードバックを基に改善が行われる。これにより、観光客の期待に応える質の高い体験型プランが完成するが、JCメンバーは手探りでモニターツアーに対象国の観光客、インフルエンサーを招聘した。実際には下記のような旅行商品が企画された。
蒲郡青年会議所(愛知県港町)は、漁業体験や競りの見学を企画。観光客が漁船に乗り込み、漁師の仕事を体験することで、漁業の魅力とその厳しさを実感し、底引き網漁で獲れた魚をその場で調理して楽しみ、漁師たちの想いや生活への理解を深め、地元の魅力を肌で感じた。さらに、漁業には欠かせないロープ作りも体験し、地域の漁業産業全体を見せた。
また、自転車好きが高じて突然民泊を始めた飲食店経営者や、蒲郡が誇る山登りの鉄人といった個性豊かな人物がプロジェクトを支えた。これらの多様なステークホルダーの協力によって、観光客が地域に密接に関わることが可能となり、訪問者にとって特別な体験が可能となった。