2025年2月14日(金)

Wedge REPORT

2024年12月19日

 備前市では、伝統工芸「備前焼」を観光の核として活用したプランが展開されている。訪問者は備前焼の作陶体験を通じて、この地域独自の陶芸技法やその歴史的背景に触れ、備前焼の器で食事が提供され、地元の食材を活かした料理を通じて地域文化を体験することができる。

 陶芸家との交流も組み込まれ、訪問者は作品制作の裏にある職人の想いや技術を学んだ。備前焼と食文化を融合させたこの取り組みは、訪問者に地域の深い理解と魅力的な体験を提供するだけでなく、伝統工芸品の価値を再発見する機会となることを意識して企画された。

 愛知県豊田市下山地区では、里山の景観保全をテーマにしたツアーが展開されている。訪問者は農地の景観保全作業に参加し、地元住民との共同作業を通じて地域資源の価値を体感する。

 囲炉裏を囲んだランチイベントでは、地元住民と交流しながら地域の食文化を楽しむ。環境保全と観光を結びつけることで、持続可能な地域観光のモデルケースとなりうる。

 実際にこの企画がすぐに人気旅行商品になるかと言えば、適切な商品化には多くのトライ&エラーを重ねるだろう。旅行業界のプロフェッショナルが担当、上記のような旅行商品をもっとスムーズにうまく策定できるかもしれないが、重要なのは、いきなり人気旅行商品を作ることではなく、この活動を通じて、地域内の旅行事業者と非旅行事業者のコミュニケーションが促進され、連携の気運が生まれてゆくことである。

 日本全国に広がる青年会議所のうち150以上が来年度以降もインバウンドへの取り組みを継続したいと表明した。JCの活動は1年区切りが基本なので、継続的に同じテーマが扱われることは極めて稀なのだが、このインバウンドと地方創生は数年の継続計画になりつつある。

 ここに行政、商工会議所等の多様なプレイヤーが乗ってくることで観光地域経営と地域創生が良い循環になってゆくだろう。観光事業に知見のないJCメンバーが理解し動くことのできるような形式知化は他の対象・組織でも有効なはずである。この形式知化を継続的に行い、全国で700のLOMを持つJCがこの循環の触媒になることに期待できる。

JCが先頭となる意味

 観光と地域創生を繋ぐ媒体になるのはどのような組織でもよいのだが、JCの特徴はその若さと多分そこからくる学習能力の高さとアジリティであろう。もちろん700もあるので地域のLOMごとにその差は大きいと思われるが、うまく運営されたときには新たな動きを紡ぎだすことも可能となる。

 それは2021年に工場の祭典を取材したときにも感じた。新潟県の三条市と燕市は古くから作業工具・刃物といった金属製品や洋食器等「金物の町」として知られていたが、過去数十年にわたり金属製品の出荷額は減少し地域の産業基盤が弱体化していた。そこで17年から「工場の祭典(こうばのさいてん)」という、工場・耕場(農産物)・購場(地場産品購入可能店)をめぐるイベントを開催している。

 これは観光振興としてはまだ初期的なのだが、興味をひかれたのは燕市と三条市が協力し、双方の工場が一体となってこのオープンファクトリーイベントを行った点であった。実は燕市と三条市はある意味ライバル関係でなかなか協力が容易ではなかったのだが、双方のJCのメンバーが中核となり、行政の支援等も経てこの協力イベントが実施されたのだ。

 これは過去の関係性にこだわらない若手経営者が主体となるJC故に可能だったのではないかと筆者は想定している。この工場の祭典はある地域の例だが、今回のインバウンド観光プロジェクトにおけるアドベンチャーツーリズムの着地型商品開発が全国レベルに広がっていく期待は十分にある。

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