国交省の野口知希・住宅局住宅産業適正化調整官は「戦後の住宅が不足していた時代は国が計画的に住宅供給を進めてきたが、既に方向性を転換している。全国に、新築、中古、持ち家、借家など様々な選択肢がある中で、国が供給を行うものではない。マンションをはじめ住宅価格が高騰して、取得環境が厳しさを増しているからと言って、市場で取引される住宅価格は国が決められない。国交省としては、住宅ローン減税や住宅金融支援機構の全期間固定金利『フラット35』によって幅広い層の住宅取得を支援するとともに、省エネ性能など質の高い住宅を増やしていくことで住環境の向上を進めている」と話す。
また、東京都住宅政策本部は低所得者などを対象に賃貸している都営住宅約25万戸(23年度末)あるが、いわゆる中所得者向けには特に政策を打ち出せていない。
このように住宅供給については民間のデベロッパーに任せきりで、〝行政無策〟と言わざるを得ないのが現状であり、首都圏の勤労世帯は難しい選択を迫られている。
東京カンテイの髙橋雅之上席主任研究員は「東京23区に住まなければならないという名を捨てて、川を渡って越境すれば価格は安くなる。東京周辺3県の中古マンションは下がっているものもある。川崎市、川口市、市川市などなら一般的なサラリーマンでも買える物件はある」と指摘する。プライドを捨て、身の丈に合ったマンション生活を求めるべき時代に入っているのかもしれない。
INTERVIEW 住宅政策の手本 持続可能な街づくり
山万「ユーカリが丘」に人が集まる理由
都心から電車で約1時間の通勤距離にある千葉県佐倉市に、デベロッパーの山万(東京都中央区)が開発、販売してきた戸建てとマンションを組み合わせた新しい街「ユーカリが丘」がある。
1971年に「自然と都市機能が調和した21世紀の新・環境都市」を目指して街づくりがスタート、80年から入居が始まった。大都市近郊に広がる多くの集合団地が、寂れていく中にあって「ユーカリが丘」は人口、世帯ともに増え続け、約1万9000人の住民はゆとりを持って暮らしている。石破茂首相が2015年、地方創生大臣だった時に視察したこの街づくりのどこに、その成功の秘訣があるのかを探るべく、現地を訪問した。
元は繊維問屋だった山万が、1970年代、佐倉市に購入した広大な250ヘクタールの土地を使って「ユーカリが丘」に3万人の街をつくろうと計画した。当初から同社の嶋田哲夫会長と共に開発を推進してきた林新二郎副会長は「3万人の街をつくらないと、ひとつの行政単位の本当の街づくりにならない」と考えたという。
戸建て住宅と、タワーマンション5棟を含む17棟を建設し、24年10月末現在の人口は1万8961人、8149世帯が暮らしている。