東京都国立市のとある分譲マンションが引き渡し直前に解体工事をすることになった。この分譲マンションは、東京都国立市で建築中であったもので、JR中央線国立駅に近い「国立富士見通り」に位置していた。富士見通りという場所の名前からわかるように、通りから富士山が望める眺めの良い立地であったが、マンション建設により眺望が遮られて富士山が見えなくなる場所が生じるため、近隣住民から改善要望の意見書が多数提出されていた。
その後、建設計画が変更されたりもしたが、景観の悪化は避けられない状況で、建設を進める積水ハウスと近隣住民との溝は埋まらないかに思われた。ところが、建物も完成し引き渡しを目前に控えた時期に、同社は同マンションの解体を決め、ニュースリリース「分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」の事業中止について」を発表した。
その中で、解体の理由として、「本事業は適法に手続きを進め、法令上の不備はございませんが、富士見通り、特に遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していたことが引き起こした事態であり、ご契約者様及び地域の皆様にさらにご迷惑をおかけすることを避けるべく、建物竣工直前ではありましたが、中止を判断いたしたものです」と述べている。
突然の決定の背景としてはさまざまなことが考えられるが、同社の発表では住民の景観への評価を重視したことが主要因であると説明されている。
見えにくい景観の住宅価値への影響
この出来事の是非は判断する人の価値観によってさまざまであろうが、少なくとも、これにより、多くの人が景観というものに高い価値を見出していること、そして、住宅を供給する企業もそれを認めたことは確認できるであろう。
この問題を考えるうえで特に注意する必要があるのは、いわゆる外部性の問題である。外部性とは、ある主体の行動が、市場での取引を通じず、意図せず他者に及ぼす影響のことで、その影響が良いものである場合は正の外部性、悪いものである場合は負の外部性と呼ぶ。
この外部性が景観にも深く関わっている。というのも、グランドメゾン国立富士見通りのように、大きなマンションが建つと、近隣住民の家からの眺めを悪化させてしまうことはよくある。そのマンションの購入者にとってのマンションからの眺めの価値は購入価格に反映されているものの、それが近隣住民に及ぼす影響は購入価格には含まれない。また、眺望の悪化に対して近隣住民に対価が支払われるわけでもない。マンション建設によって近隣住民の眺望が妨げられることは、負の外部性になってしまうのである。