アメリカのドナルド・トランプ大統領は14日、BBC番組「パノラマ」が自分の2021年1月6日の演説の一部をつなぎ合わせたことをめぐり、BBCに対して法的措置を取ると述べた。
トランプ氏は14日、大統領専用機エアフォース・ワンの機内で記者団に応じた際、「我々はおそらく来週中に、10億ドルから50億ドルの損害賠償を求める訴えを起こすだろう」と語った。
「そうしなくてはならないと思う」、「彼ら(BBC)はずるをした。私の口から出る言葉を変えたんだ」と、トランプ氏は述べた。
トランプ氏は現時点で、キア・スターマー英首相にはこの問題を提起していないとしつつ、スターマー氏から協議の申し出があり、今週末に電話で話をするつもりだと述べた。
BBCが公的な裁判記録データベースを検索したところ、これまでに法的措置は取られていない。
トランプ氏側が訴えを起こす可能性が高いフロリダ州の連邦および州レベルの裁判所は、週末の間は閉庁している。
BBCはトランプ氏の演説を編集したことについて謝罪はしたものの、賠償の求めには応じないと、トランプ氏に返答していた。
英保守派ニュースにトランプ氏
トランプ氏がホワイトハウス記者団に対し、BBCを訴えると発言する前、同氏は英保守系メディアGBニュースのインタビューに応じた。
GBニュースは15日、そのインタビューを公開。その中でトランプ氏は、「長年この仕事をしているが、こんなことは見たことがない。あれは最も甚だしいものだ。よりもひどいと思う」と語った。
今年7月には、BBCがアメリカで提携するCBSニュースとその親会社パラマウントがトランプ氏に提訴され、和解金1600万ドル(約23億円)を支払うことで合意した。トランプ氏は、2024年の選挙前に民主党候補カマラ・ハリス副大統領(当時)に対するCBSのインタビューが不正に編集されたと主張していた。
「そう(提訴)しなくてはならない義務が、自分にはあると思う」と、トランプ氏はGBニュースに述べた。「やらなければ、ほかの人たちに同じことが起きるのを止められない」。
謝罪するも賠償には応じず
2024年放送の当該の「パノラマ」映像は、トランプ氏による2021年1月6日の演説の2カ所をつなぎ合わせて編集したもの。英紙テレグラフが今月初めに伝えたBBCの内部メモは、この編集について、トランプ氏が議事堂を襲撃するよう支持者を明示的に促しているかのように見せ、視聴者に誤解を与えたと指摘していた。
この問題を受け、BBCのティム・デイヴィー会長とニュース部門トップのデボラ・ターネス最高経営責任者(CEO)が9日、辞任を発表。BBCのサミール・シャー理事長は10日、英議会下院委員会への書簡で、編集について「判断の誤り」があったとして謝罪した。
トランプ氏の弁護団は、BBCが撤回を発表して謝罪と賠償をしない限り、10億ドル(約1546億円)の損害賠償を求める訴えを起こすとし、イギリスの14日午後10時(日本時間15日午前7時)までに回答するよう求めていた。
BBCは13日、演説の編集について大統領に謝罪した一方、賠償の求めには応じなかった。
BBCは自らのウェブサイトの「訂正と説明」のページで、トランプ氏の演説の編集が批判されたことを受けて「パノラマ」を検証したと説明。
「演説の異なる箇所から取ったのではなく、連続した部分の映像であるかのような印象を、私たちの編集が意図せず与えたことを認める。これにより、トランプ大統領が暴力的な行動を直接呼びかけたかのような誤った印象を与えた」とした。
BBCが13日、トランプ氏への謝罪を発表する少し前には、英紙デイリー・テレグラフは、問題の「パノラマ」の前にも、トランプ氏の2021年1月6日の演説を誤解を招くように編集したケースがあったと報じた。
記事は2022年に放送した番組「ニューズナイト」を取り上げた。その番組では、トランプ氏が「議会議事堂まで歩いて行き、勇敢な上院議員や下院議員の男女を応援するぞ。そして私たちは戦う。死に物狂いで戦う。死に物狂いで戦わなければ、もはや国を失ってしまう」と述べたように映像が流された。
続いて議事堂襲撃事件の映像が現れ、「そして彼らは戦った」というカースティ・ウォーク司会者のナレーションが入っている。
元ホワイトハウス首席補佐官で、議事堂襲撃を「クーデター未遂」と呼んでホワイトハウスを去ってからトランプ氏を批判するようになったミック・マルヴェイニー氏は、同じ番組内でこの映像について、トランプ氏の演説を「つなぎ合わせている」と指摘。
「『私たちは戦う、死に物狂いで戦う』という部分は、実際には演説の後のほうに出てくる。だがこの映像では、二つの部分が一つだったように見える」と述べていた。
BBCの広報はテレグラフの記事を受け、BBCは「最高の編集基準」を自らに課しており、この問題を調査中だとした。
賠償の必要なしと考える理由
BBCの広報担当によると、BBCの法務担当はトランプ氏側からの書簡を9日に受け取っており、その対応として、13日に同氏の法務チームに書簡を送付した。
BBC側は書簡で、「BBCのサミール・シャー理事長は別途、ホワイトハウスに私信を送り、トランプ大統領に対し、番組で取り上げた2021年1月6日の大統領の演説の編集について、理事長とBBCが申し訳なく思っていることを強調した」とした。
また、「BBCはこの映像の編集方法を心から遺憾に思っているが、名誉毀損の主張に根拠があるとの見解には全く同意しない」とした
BBCはトランプ氏の法務チームへの書簡で、賠償の求めに応じる必要はないと考える理由として、以下の5点を挙げている。
(1)BBCは「パノラマ」をアメリカで放送する権利を持たず、実際に放送しなかった。BBCの配信サービス「iPlayer」での視聴はイギリス国内の人向けに限定されていた。
(2)「パノラマ」はトランプ氏に損害を与えなかった。放送後にトランプ氏は大統領選挙で当選した。
(3)当該映像に誤解を与える意図はなかった。長い演説を短くしたもので、編集に悪意はなかった。
(4)当該映像はそれのみで捉えられることを前提としたものではなかった。1時間の番組の中の12秒であり、番組全体ではトランプ氏を支持する声も多く取り上げていた。
(5)公共の関心事に関する意見や政治的な言論は、アメリカでは名誉毀損の関連法で手厚く保護されている。
(英語記事 Trump says he will take legal action against BBC over Panorama edit)
