米共和党の中でも強硬な保守派として知名度を得たマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は9月、連邦議会議事堂前で、ジェフリー・エプスティーン元被告の被害者とされる人々と共に記者会見に臨み、捜査資料公開を強く求めた
アメリカ共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)は21日、来年1月に辞職すると発表した。かつてドナルド・トランプ米大統領を強力に支持していた同議員はこのところ、性犯罪で有罪とされたジェフリー・エプスティーン元被告(故人)に関する記録の全面公開を要求し、トランプ氏と公然と対立している。
トランプ氏とその「MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)」運動を強力に支持することでアメリカ政界で知名度を得たグリーン氏は、ソーシャルメディアに投稿した動画で、2026年1月5日に議会を去ると発表した。
「私は今後の新しい道を楽しみにしています」とグリーン議員は動画で述べ、自分の功績を列挙した。さらに、トランプ氏が来年11月の中間選挙で自分を追い落とすため、別の共和党候補を支援すると脅したことを批判。辞職の書簡には、自分に対するトランプ氏のコメントに「傷ついた」と書いた。
「私には自尊心と尊厳が十分すぎるほどあり、家族を愛しすぎている。私たち全員が大統領のために闘ったけれど、その大統領によって、私の大事な選挙区が、私に敵対する有害で憎悪にまみれた予備選挙を耐え忍ぶことになることを、私は望んでいない。それでも私は戦って勝つだろうし、共和党はおそらく中間選挙で負けるだろうけれども」と、グリーン議員は述べた。
グリーン氏はさらに、「いつか終わって何もかも良くなりますようにと願っているだけの、『殴られ続ける妻』になるつもりはない」とも述べた。
グリーン氏は辞職届の書簡で、「私は大統領のために闘った。そのアメリカ合衆国の大統領から、14歳でレイプされ、人身売買され、金持ちで権力のある男たちに利用されたアメリカの女性たちのために立ち上がったことについて、裏切者と呼ばれ、脅されるようないわれはない」と書いた。
これまでグリーン氏を「裏切者」などと呼び、落選させるため対立候補を応援するなどと公言していたトランプ氏は、ABCニュースに対して、グリーン氏の辞職は「素晴らしい知らせだ」とコメントした。
グリーン氏は、トランプ氏が大統領選に敗れた2020年11月の下院選で初当選。2020年大統領選に勝ったのはトランプ氏だという虚偽の主張や、さまざまな陰謀論を拡散した。各地の学校での銃乱射事件や2001年9月11日の米同時多発攻撃が仕組まれたものだと主張するなど、Qアノン陰謀論も推進した。彼女はその後、謝罪し、これらの発言から距離を置こうとしていた。
共和党は下院(定数435)で多数党だが、民主党との差はわずかで、現在は共和党が219議席、民主党が213議席となっている。このため、グリーン議員の辞職によって、その差はさらに狭まることになる。来年11月の中間選挙では、全議席が改選対象になる。
他の公職を視野に?
グリーン氏は下院議員を退職すると発表したが、州知事や上院議員の職に関心があるのではないかと、一部の米メディアは伝えている。
このところグリーン氏と表立って対立していたトランプ大統領は、自身のソーシャルメディアに、どちらにも出馬しない方がいい、世論調査の結果が悪すぎるからと本人に伝えていたと書いている。
グリーン氏自身はその後、知事選にも上院選にも出馬しないと述べている。
決裂する前の2人は、お互いを支え続ける関係だった。グリーン氏はトランプ氏の「アメリカ・ファースト(第一主義)」政策を強力に掲げたほか、2020年大統領選で勝ったのはジョー・バイデン氏ではなくトランプ氏だという虚偽の主張を声高に繰り返した。
しかし、米政府が保有するエプスティーン元被告の捜査資料をすべて公開するようグリーン氏は主張する一人となり、関係は悪化した。
いわゆる「エプスティーン・ファイル」の公開にトランプ氏は強く反対していた。しかし、グリーン氏や他の共和党議員が民主党と協力し、資料公開の法案を可決する見通しになると、トランプ氏は立場を一変させ、法案を支持するよう共和党に求めた。
司法省にエプスティーン文書の公開を義務付ける法案は18日に議会両院で可決され、トランプ氏は19日に署名して法律にした。ただし、司法省の資料公開に議会採決は不要で、トランプ氏が指示するだけで公開は実現したはずだった。
エプスティーン・ファイルの公開をめぐり、トランプ氏の支持層は大きく分裂してきた。資料公開を求める特に声高な声の一つとして、グリーン議員がその分裂を推進したとみられている。
グリーン議員はここ数カ月、主要ニュース番組に相次ぎ出演し、トランプ氏や共和党の同僚たちを批判してきた。大統領選で公約した有権者の生活費引き下げについて、大統領の対応が不十分だと主張し、関税政策を批判した。
グリーン氏はさらに、外交政策に焦点を当てるトランプ氏が「アメリカ・ファースト」を今も重視しているのか、公然と疑問視した。
こうした批判に対してトランプ氏はソーシャルメディアで、グリーン氏を攻撃し続けた。「裏切り者」で「イカれている」と呼び、彼女を失脚させるべきだとし、議会で彼女に挑戦する候補を支援すると誓った。
グリーン氏は16日、米CNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」でアメリカでは政治における憎しみと分断が、家族や友人や隣人をばらばらにしていると述べ、そうした政治での憎悪と分断を終わらせることに力を注いでいると表明した。
さらに、「アメリカは団結し、有害で危険な暴言や分断を終わらせる必要があると思う。私は自分の行動でそれを率先する。トランプ大統領にも同じことを望む」と述べた。
こうした発言は、グリーン氏の過去の言動と大きく異なる。同氏はこれまで、反ユダヤ主義的な陰謀論を宣伝したり、ソーシャルメディア上で物議を醸す投稿を持ち上げたりすることで、政治的分裂をあおっていると非難されてきた。過去には、民主党のナンシー・ペロシ元下院議長やバラク・オバマ元大統領の処刑を求める投稿に「いいね」を付けたことや、進歩的な民主党下院議員3人の画像と並べて銃を手にした自身の写真を投稿したこともあった。
グリーン氏はCNNで、トランプ氏による自分への攻撃は、政界での有害な内輪もめを永続させるだけでなく、グリーン氏の身の安全も脅かしていると述べていた。
(英語記事 High-profile Republican Marjorie Taylor Greene to quit Congress after Trump feud)
