2025年12月14日(日)

BBC News

2025年11月25日

和平合意に関する交渉に当たっているウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官(左)と、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は23日、スイス・ジュネーヴで協議した

サラ・レインズフォード南欧・東欧特派員(スイス・ジュネーヴ)

ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナをめぐる和平合意の実現をとてつもなく望んでいる。

そして、トランプ氏以上に平和を望んでいるのはウクライナだ。ただ、どんな代償を払ってでもというわけではない。

だからこそ、アメリカが当初、ウクライナに合意するよう迫った和平案にウクライナは抵抗した。アメリカがロシアとまとめた28項目からなる和平案には、ウクライナが東部ドンバス地方を放棄し、軍の規模を大幅に縮小することなどが含まれていた。こうした条件はウクライナにとっては降伏に等しい。アメリカはこの和平案を20日に提示し、アメリカの感謝祭にあたる11月27日までに受け入れるようウクライナに求めた。

これを受け、ウクライナは高官をスイス・ジュネーヴへ急きょ派遣。23日には、アメリカとウクライナの代表団が乗ったスモークガラスの黒いリムジンが終日、二つの主要会場を行き来した。

協議にはドイツ、フランス、イギリスの国家安全保障顧問も加わった。

私は現地で、ウクライナの交渉チームを率いるアンドリー・イェルマーク大統領府長官を一度だけ見かけたが、硬い表情をしていた。

無理もない。交渉のテーブルに上がった最初の提案が、ロシアの要求にあまりに偏っていたのだから。両国の協議は、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官がこの和平案はクレムリン(ロシア大統領府)が作成したものではないと否定するところから始まった。

しかし、トランプ米大統は以前から、ウクライナが和平案に迅速に署名しなければなんらかの結果に直面すると明言していた。そのため、ウクライナ政府は交渉に応じざるを得なかった。

ルビオ氏は23日夜、ロシアとウクライナの戦争終結に向けたアメリカの提案を最終化する協議で「素晴らしく多大な進展」が実現したと発言。まだ協議が必要な問題は「いくつか」に絞られたとした。ただし、「微妙な」状況だとして具体的には語らなかった。

ウクライナとアメリカの共同声明によると、「更新・改訂された枠組み文書」だとする全く新しい合意が進行中だという。

私達はまだその内容を確認できていない。英紙フィナンシャル・タイムズは、協議に参加したウクライナのセルギー・キスリツァ第1外務次官の話として、19項目からなる最新の計画には当初の和平案の内容は「ほとんど残っていない」と伝えている。

新たな和平案の内容は

新たな和平案には、欧州側が提案した修正点の少なくとも一部は盛り込まれ、ウクライナ政府にとってはるかに受け入れやすい内容になっているとみられる。

この対案は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への可能性を残し、ウクライナ軍の兵力を制限する内容を含まない。

また、西側の部隊がウクライナに恒久的に駐留することはないとしているが、ウクライナ駐留を全面的に禁止するものではない。

ロシアがウクライナ南部クリミアを一方的に併合した2014年からの11年間、ウクライナ兵は自国の領土を命がけで守ってきた。

そうしたウクライナの領土をめぐるデリケートな問題については、東部ドンバス地方のウクライナ支配地域をロシアに無条件で明け渡すことはなく、ウクライナは外交手段だけで、ロシアに占領された地域を取り戻すことを目指すとしている。これは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が以前受け入れた内容だ。

戦争犯罪に全面的な恩赦を与えるとする内容も削除された。

しかし、新たな和平案で最も重要なのは、安全の保証に関する記述があることだ。

イギリスのキア・スターマー首相ら複数の当局者はこれまで、ウクライナがNATO条約第5条のような保護を受けることについて言及している。NATO条約の第5条では、加盟国に対する武力攻撃は全加盟国への攻撃と見なし、各国が防衛に協力すると定めている。つまり、ロシアが再び侵攻した場合、アメリカがウクライナの防衛に介入する義務を負うことを意味する。

これは、ウクライナが交渉の余地はないと主張する重要な点だ。

新たな和平案に、こうした欧州側の提案がどれほど盛り込まれたかは不明だが、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、「大幅に修正された」案だと肯定的に評価している。

「ロシア寄り」の内容から一転、今後は

わずか1日で一体どうやって、ロシア寄りの和平案の内容がここまで変わったのか。トランプ政権のスティーブ・ウィトコフ特使のようなタカ派が協議に同席していたことを考えると、確かなことは言い難い。

当初の、クレムリンに有利な和平案は、ウィトコフ氏自身が今春にロシアのウラジーミル・プーチン大統領を訪ねたことが影響していた。同氏はロシアから帰国した際、物議を醸すロシア側の主張をほぼそのまま用いて発言していた。

しかし、今回の対案は、ウクライナがゆくゆくは署名する可能性のある内容となっているようだ。

トランプ氏は23日の早い段階では、ウクライナ政府幹部に「感謝の気持ちがまったくない」と非難していたが、ジュネーヴでの両国の協議後には、「もしかしすると何か良いことが起きているかもしれない」とソーシャルメディアに投稿した。ウクライナが応じる可能性が出てきたことから、姿勢を転換させのだろう。

だが、トランプ氏が言う良いこととは、どれほどのものなのだろうか。ロシアはというと、戦闘をやめる兆候は依然として見られず、強制的に止めるほかないだろう。

米カーネギー国際平和基金ユーラシア・ロシア・センターのタチアナ・スタノヴァヤ氏は、「プーチン氏は現在、軍事面で以前よりはるかに自信を持っている」とみている。

ウクライナでの汚職スキャンダルや政治危機、兵士動員をめぐる問題、そして地上でのロシア軍の戦果、これらすべてがプーチン氏の思考を勢いづけていると、スタノヴァヤ氏は指摘する。

トランプ氏が和平案を受け入れるよう迫ったことで、良く言えば、攻撃にさらされているウクライナの人々が切望する和平努力に新たな勢いをもたらしたと見る人もいる。

しかし、この数日間の慌ただしい外交で結局、振り出しに戻っただけという印象はぬぐい切れない。

「『我々は要求を提示した。あとはそちらが受け入れるかどうかだ』というのがロシアの立場だ」と、スタノヴァヤ氏は述べた。「『受け入れるのなら戦争をやめる。そうでなければ、そちらが(受け入れる)準備ができるまで待つだけだ』というわけだ」。

(英語記事 Updated peace plan could be a deal Ukraine will take - eventually

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cy07lk8dy04o


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