2025年12月14日(日)

BBC News

2025年11月25日

英下院委員会に出席したシャーBBC理事長

BBC番組がドナルド・トランプ米大統領の2021年1月6日の演説の一部をつなぎ合わせた件について、BBCのサミール・シャー理事長は24日、イギリス下院の文化・メディア・スポーツ委員会の公聴会に出席し、BBC報道の不偏性について議員たちの質問を受けた。その後、下院委のキャロライン・ダイネージ委員長はBBCラジオに対して、シャー理事長は「優柔不断」な印象を与えたとして、運営手腕を疑問視した。

BBC番組「パノラマ」によるトランプ氏の演説編集をめぐり、BBCのティム・デイヴィー会長が辞意を表明したほか、BBCニュースのデボラ・ターネス最高経営責任者(CEO)が辞任した

デイヴィー会長とターネス氏をはじめBBC幹部は、演説の編集は重大な誤りだったと認めつつ、BBCに組織的な偏向はないと主張している。また、巨額賠償を求めるトランプ氏に対してBBCは謝罪したものの、賠償の求めには応じないとした。

この事態を受けてシャー理事長は他のBBC幹部と共に下院委に出席し、まず「BBCを信じ、気にかけているすべての人々」に謝罪した。

自分自身の進退について質問されると理事長は、「私の仕事は今、船を安定させてバランスを維持することだ」、「私は問題から逃げるような人間ではない。問題を修復するのが私の仕事だと思うし、そうしている」と答えた。

理事長はさらに、トランプ氏の演説編集の問題についてBBCの対応が遅すぎたと委員会に認め、トランプ氏への謝罪についても「実際に何について謝罪するのか、正しく反応するのに時間がかかった」と説明した。

理事長は、新しい会長の人選は始まっており、会長の職務が「一人で担うには大きすぎる」ため、副会長のポストを設けたいと委員会に話した。

新会長の求人広告は、下院委員会の公聴会が24日に始まる直前に公開された。

この公聴会の後、下院委のダイネージ委員長(保守党)はBBCのラジオ番組に出演し、「BBCがもっと素早く、かつ断固として行動できるようになるにはどうしたらいいのか。それを質問しても、(シャー理事長は)正面から答えなかった」と述べた。

「私たちは、BBC理事会がこの事態にしっかり対応できるという、確固たる証拠を強く求めていた(中略)しかし、(理事会に)それができる、あるいはそうするのか、私は必ずしも納得できていない」とダイネージ委員長は述べた。

シャー理事長の地位について尋ねられると委員長は、「BBCは、会長と理事長が不在というわけにはいかない。指導陣交代へ進む作業を主導する誰かが必要だ。ただし、今の理事会がしっかり安全に運営されていると、私たち委員会が熱烈に確信したとも思えない」と答えた。

「私たちが今日、重ねたような質問に対して、もっとしっかりした答えが必要だ(中略)すべてがとても優柔不断だった(中略)BBCのガバナンスの中心がしっかり統制されているという印象は強く受けなかった」とも委員長は述べた。

他の理事たちは委員会で何を

シャー理事長と共に下院委に出席したキャロライン・トムソン理事は、「パノラマ」の映像がトランプ氏のメッセージについて「誤解を招く印象」を与えたと、複数の理事が感じていたものの、報道部門の担当者たちは演説全体の内容を踏まえれば公平だと主張していたのだと明らかにした。

「ニュース部門は、この編集にもかかわらず、与えた印象は正しかったと主張し続けた。なぜなら、トランプ氏は演説で例えば『戦う』という言葉を15回使った一方、平和については一度しか言及しなかった」ため、演説の要旨を伝えるにあたり、ニュース部門は「この編集は正当化されると感じていたが、もっと透明性のある編集であるべきだった。私たちは、この編集がより深刻な問題を引き起こしたと感じた」と、トムソン理事は下院委に話した。

2021年にBBC理事会に加わったサー・ロビー・ギブの役割にも、下院委は注目した。リブ理事は元BBC編集者で、保守党のテリーザ・メイ政権時代に首相官邸の広報部長だった。

ダイネージ委員長はギブ理事に、「右派寄りの自分の偏向をもって理事会に影響を及ぼしたと、さまざまなマスコミが批判している」と指摘し、理事会が政治的動機にもとづき「クーデターを画策・実行した」という憶測について見解を尋ねた。

これに対してギブ理事は、「それは最もばかげた非難の一つだ(中略)完全なナンセンスだ」と答えた。

ギブ理事は下院委に対して、BBCをめぐる議論を「武器化」する動きがあり、自分はその犠牲者になったと述べた。

さらにギブ理事は、自分が首相官邸の広報部長だったのは2年間で、BBCでプロデューサーや編集者として働いた25年間に比べればはるかに短かいと説明。自分はBBC理事として、「きわめて不偏」に行動してきたと強調した。

「パノラマ」の編集問題をめぐり会長とニュース責任者が辞意表明するに至ったのは、流出したBBCの内部メモの詳細を英紙テレグラフが11月3日に報道したのがきっかけだった。

流出した内部メモは、演説映像の編集のほか、ガザ戦争報道やトランスセクシュアルの人についてなど、特定のテーマについてBBC報道に偏向があると懸念を示す内容で、それを執筆した元編集顧問のマイケル・プレスコット氏も、この日の委員会に出席した。

英紙サンデー・タイムズの政治担当主任記者などを務めたプレスコット氏は、下院委に対して、2022年から2025年まで理事会の編集顧問を務める間、BBCニュースの「体系的な」欠陥に対処する行動の欠如に不満を募らせ、メモをBBC理事会に送ったのだと委員会に説明した。

プレスコット氏はまた、BBC理事会が元BBC記者のデイヴィッド・グロスマン氏に委託した内部報告書で、さまざまな問題が挙げられたものの、それについて理事会が懸念を示しても、BBC幹部から否定されることが多かったと述べた。

「メモで私が書いたように、組織の何段階にもわたり、問題を否定する傾向がある。アメリカ大統領選の報道についても、イスラエル・ガザの報道についても、デイヴィッド・グロスマンから報告書が届いたが、経営陣の対応は問題をただ否定して、『自分たちはそうは思わない』と言うだけだった」とプレスコット氏は説明した。

さらに、BBC経営陣が当初、「パノラマ」によるトランプ演説の編集を「擁護し、支持する」姿勢を取ったとき、「絶望した」とプレスコット氏は述べた。

一方で、この問題が「静かに解決される」ことを自分は望んでいたのだとして、自分のメモがどのように流出したかは知らなかったと話した。

プレスコット氏はさらに、BBCの状態は「悪化」していると述べ、「自分が期待したほど理事会は問題を真剣に受け止めていない」と主張した。ただし、BBCが「組織として偏向」しているとは思わないとも述べた。

(英語記事 BBC may not be in 'safe hands' under its chair, says committee head / BBC chairman vows to stay to 'fix' problems

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c8jwy1eje8go


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