また、未だに「子無きは去れ」といった社会通念が女性にプレッシャーを与えているのも事実です。父親、母親、子どもがいて家族が完結するという「近代家族規範」があるため、子どもがいない夫婦はあるべきはずのものが欠落しているというイメージを持つ人たちがいる。当事者たちは、他人にそう見られる焦りもあるんじゃないかと思いますね。
ーー諸外国でも同じような規範が支配的なのでしょうか?
小林:韓国では、男の子を産んで「嫁は一人前」というのが強く、男の子がいない夫婦も不妊とみなされると聞きます。
ーー日本では、どんな生殖医療が主流なのでしょうか?
小林:体外受精が主流で、全国で誕生する36人に1人の子どもが体外受精によるという状況です。
不妊治療では、まず人工授精から始め、女性の排卵日に合わせ、精子を入れ様子を見ていきます。しかし、人工授精で妊娠する人の割合は多くなく、2年間ほど続けても子どもができない場合、体外受精に移行します。ただ、体外受精では、排卵誘発剤を使用したり、針を卵巣に刺す採卵といった治療を受けるため、心身ともに負担が大きく、仕事を続けながら治療を受けるのは難しいとも聞きます。
ーー他にも少し前にニュースで大きく取り上げられた着床前診断がありますね。
小林:着床前診断にはさまざまな目的があるんです。たとえば、ドナーベビーをつくるという目的があります。これは、子どもが白血病になり、骨髄移植が必要だけれどもドナーが現れないと。そこで受精卵のHLAの型を見れば、ドナーに適合するかどうかわかるので、ドナーとなる次の子どもを生むというものです。ただ、これについては諸外国でも国や州で認めているところもあれば、認めていないところもあります。
そもそも着床前診断は、遺伝性疾患の家系の人が、疾患を受け継がない子どもを生みたいというニーズから始まったものなんです。大抵の場合、第1子を自然に生んだけれども、その子がたまたま遺伝性疾患を受け継ぎ亡くなってしまった場合、2人目が欲しくても、同じことが再現されるのが怖くなってしまいます。これまでそうした人たちは、羊水検査を受けて中絶する方法がありましたが、中絶は心身ともに女性にとってダメージが大きいことが問題でした。しかし、着床前診断なら、まだ胚の状態ですし、心理的な負担が軽減されるのではないかということです。
日本では、これまで遺伝性疾患の家系を対象に、学会で厳格に審査していましたが、最近では習慣流産のケースも認められるようになりました。男女産み分けは日本では認められていませんが、産み分けのニーズは日本でも少なくなく、そういう人たちはタイへ行って治療を受けているそうなんです。