国立社会保障・人口問題研究所の調査(10年)によると、6組に1組のカップルが不妊の検査や治療の経験があるという。生殖医療が発達し、救いの手を求めるカップルは多い。しかし一方で、妊娠は自然にまかせたほうがいいという人たちも存在するのも事実だ。悩むカップルと、当事者以外の人たちの「温度差」はどうして生じるのか。また、実際に生殖医療ではどんな治療が行われているのか。『生殖医療はヒトを幸せにするのか 生命倫理から考える』(光文社新書)を上梓した北里大学の小林亜津子准教授に話を聞いた。
ーー生殖医療に対して、生殖技術を利用し、子どもを持ちたいという当事者たちとそれ以外の人たちの間で温度差があると本書でも指摘されています。まず、生殖医療の特徴とは?
(小林亜津子・著 光文社新書)
小林:生殖医療は、「医療」という名称がついていますが、不妊は病気ではなく、また生殖の障がいとなっている患部そのものを治すわけではありません。これは「子どもが欲しい」という希望を叶える「救済治療」と呼ばれます。近視の人たちがコンタクトレンズやメガネを装着するのも救済治療です。これに対し、患部そのものを治療することを「根治治療」と言います。
ですから、救済治療として医療の介入を受けること自体が不自然だと考える人もいますし、根治治療ではないため、「そこまでする必要が本当にあるのか」と、当事者以外からは「ワガママ」と考えられてしまいがちです。しかし、当事者からすれば確かに不妊は病気ではないけれど、「子どもが欲しい」と必死の思いで治療を受けているんです。
ーー根治治療でないが故に当事者でない人が抱く「違和感」もありますが、子どもができるかどうかは自然に任せたほうがいいという意見の人たちもいます。
小林:まず、不妊治療を良としない人たちは、自然の摂理に反するとか、不自然だからいけないといった直感的な物差しで判断しているのでしょう。昔から日本人は、新たな技術が出現し、その是非を考えるときに「自然」がキーワードになっていると海外からも指摘されています。直感的な物差しで判断する高齢者の中には、孫が体外受精で生まれたと聞くと毛嫌いする人もいると聞きます。これは試験管ベビーという言葉が、命そのものを人為的に生み出すというイメージがあるせいなのかもしれません。実際の体外受精はシャーレと呼ばれる培養皿に精子と卵子を入れ3日間放置し、その中で自然に受精卵が出来ると女性の子宮へ移植します。