復旧作業を困難にした事業売却
今回、復旧が遅れている背景に、アサヒGHの財務、人事、総務、IT部門などの間接業務を行っている子会社のアサヒプロマネジメントのアクセンチュアへの事業売却がある。アサヒプロマネジメントの株式80%をアクセンチュアへ譲渡する契約が結ばれている。また、28年10月をめどにアサヒプロマネジメントの全株式をアクセンチュアに譲渡し、社員約400人を転籍させることが報道されている。
アサヒグループジャパンの濱田賢司代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)は「リストラではない。アクセンチュアで管理・間接部門のプロフェッショナルを目指して欲しい」と言うが、外部から見ればコスト削減でしかない。
ASAHI-CSIRTもこのアサヒプロマネジメントに属しているのだ。指揮命令は正常に機能したのか、現場で働く社員のモチベーションが失われてはいないか、アサヒのITシステムを熟知したシステムエンジニアが退職することはなかったかなど、懸念材料は多い。
事業戦略の見直しが肝心だ
日本経済新聞の報道によると、今回のサイバー攻撃の直接損失は90億円ほどで、販売機会の損失や情報流出の伴う費用なども含めるとさらに大きくなるという。アサヒプロマネジメントのアクセンチュアへの事業売却によるコスト削減効果は20億円程度とみられており、損失額の方が遥かに大きい。
管理・間接部門のアウトソーシングの受注はアクセンチュアの事業戦略そのものであり、いずれ業務委託費用も値上がりするだろう。
アサヒGHは、Qilinに対して身代金を支払うことはないだろうが、アクセンチュアに対しては、ITシステムを人質として差し出したも同然ではないだろうか。
ますますITの重要性が高まる中、本当に事業売却することが正しいのか。間接部門の事業売却は、短期的な損益の改善に過ぎない。
