デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、多くの企業が一大プロジェクトとして始めた基幹システムの開発やリプレースがここに来て失敗する事例が増えている。全国農業協同組合中央会(JA全中)は2025年3月、全国の農協で活用予定であった業務管理システムの開発の頓挫により200億円規模の損失が発生する見込みであると報じられた 。 江崎グリコでは24年4月、基幹システム切り替え後にシステム障害が発生し、一部の冷蔵食品の出荷に影響が生じた。
こうしたシステム開発の失敗は、飲食業や小売業、製造業と様々な業界で起きている。また、失敗の原因を巡ってユーザー側とベンダー側とでトラブルも相次ぎ、裁判に発展することが少なくない。近時では、物流大手の日本通運が基幹システムの開発失敗を巡り、約124億9100万円の損害賠償を求めて開発ベンダーのアクセンチュアを訴えたことが報じられた。
DXの中心である基幹システムの開発やリプレースにはユーザー企業および開発ベンダーといった多数の人間が関わることに加え、作業工程も長期間にわたることから、失敗に至る要因も複雑多岐に渡る。また、数十億円から数百億円の巨額の費用が掛かる。失敗の原因を巡るトラブルを当事者間の話し合いで解決することは容易ではない。
本稿では、DXの失敗や法的紛争を少しでも減らすべく、過去の裁判例を基にシステム開発の失敗に至った原因や傾向を紹介する。
