2025年12月9日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2025年12月9日

文化シヤッター対IBM

 一つの裁判例として挙げられるのが、総合建材メーカーの文化シヤッターが基幹システム開発の失敗の原因を巡って、開発ベンダーである日本IBMに対して約27億円の損害賠償請求をしたものである。17年11月に訴訟が提起され、25年1月に最高裁判所が日本IBMに損害賠償金約20億円の支払いを命じる判決を確定させた。

 文化シヤッターは20年以上利用していた「販売管理システム」の刷新を日本IBMに依頼。日本IBMの提案により、米Salesforce(セールスフォース)が提供するプラットフォームを利用することとなった。同プラットフォームでは、画面のデザインワークフロー、レポート機能といった基幹システムの機能が標準部品として用意されており、開発コストや開発期間を削減でき、保守も容易となるメリットがあった。

 ところが、実際の開発では、プラットフォームに備わっている標準部品はほとんど用いずにカスタム開発が多用された。判決では、プラットフォームを利用した開発なのに当該プラットフォームにあらかじめ備わる標準部品はほとんど用いずにカスタム開発を多用した点でIBMが開発手法を誤った、と指摘されている。

システム開発の工程

 大型のシステム開発プロジェクトで用いられるウォーターフォール型の手法においては、「要件定義」 → 「基本設計」 → 「詳細設計」 → 「開発」 → 「テスト」といった多段階に工程(フェーズ)が分かれている。最初に近い段階を「上流工程」といい、完成に近づく段階を「下流工程」とも表現する。

 要件定義フェーズでは、ベンダーがユーザーのニーズをヒアリングし、どんな機能が必要かを明確化する。住宅の建築で例えると、建築士が施主との打ち合わせを実施して、「どんな家に住みたいか?」「予算は?」「部屋数は?」「庭や駐車場は必要か?」といった希望を整理する段階である。

 基本設計のフェーズでは、大枠のシステム構成、画面遷移、主要機能の仕様を決める。住宅の建築で例えると、建築士が「LDKは1階に配置」「子供部屋は2階」「トイレは各階に」など、建物の大枠の間取りを決め、基本設計図・平面図を作成する段階である。

 詳細設計フェーズでは、データベース設計、API仕様、入出力形式など詳細な仕様を固めることとなる。住宅の建築で例えると、「壁の厚さ」「窓のサイズ」「電源コンセントの位置」「床材の種類」など施工に必要となる詳細な図面・仕様を決定して、実施設計図を作成する段階である。

 開発フェーズは、プログラミング、コーディング、各種設定をする段階である。住宅の建築で例えると、大工や職人が基礎工事、大工工事、設備工事など図面通りに建物を建てていく段階である。

 テストフェーズは、単体テスト、結合テスト、総合テスト、ユーザー受入テストなど開発したシステムが予定通りの機能・水準になっているかをテストするフェーズである。住宅の建築で例えると、「ドアや窓は正常に開閉できるか?」「設計図通りになっているか?」を施主や監督がチェックする段階である。


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