観光産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展している。特にコロナ禍以後、非接触型サービスやリアルタイム情報の提供、柔軟なキャンセル対応などが求められる中で、ホテルや旅行会社、自治体が積極的にデジタル技術を導入している。ただ、観光におけるDXはそうした業務効率化だけではなく、観光地マネジメントやサービス向上を図るためにAIやビックデータ、IoT、クラウドを活用する取り組みも重要だ。
それも世界的に進められている傾向にあるが、導入コストの高さが中小施設にとっての障壁となっていることや、世界のホテル業界においても、継続的に管理できる体制が未成熟であるなど、課題は少なくない。
観光DXはどのような形で進み、観光サービスはどのように変わっていくのか。本稿では観光DXの現状とその理念と実装を比較的バランスよく実現している福井県の事例を見てみたい。
DXのとは?
本来DXとは、「デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化、業務プロセス、さらには顧客との関係性そのものを変革し、持続的な価値創出を実現すること」である。単なるITの導入や業務の効率化にとどまらず、「企業や社会のあり方そのものを変える変革のプロセス」が本質となっている。
下記の図は筆者監修で2019年に出版した『インバウンド・ビジネス戦略』(日本経済新聞)に載せたツーリズム生態系におけるICT基板、今で言うDXの図で、旧来とデジタル化の元での新たなツーリズムビジネスの生態系を比較している。旅ナカの顧客行動は別途詳細に記述する必要があるが、この図は全体像をつかんでもらうために簡略化している。観光DXでは、本来この旧来プロセスをただ新しいデジタルに載せるだけではなく、ビジネスモデル自体も個社と業界と地域レベルで変革していく必要がある。