2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年6月16日

 FTASは、観光事業者や行政が戦略立案やプロモーションに活用することを目的に、当初以下のような多様なデータを統合・可視化していた:

1. 宿泊予約状況・POSデータ
2. アンケート結果
3. 観光施設の予約状況
4. ウェブアクセス解析
5. SNS投稿の分析(特にInstagram)
6. モバイル位置情報(人流データ)

 上記は6のモバイル位置データなど外部事業者の協力が必要なものもあり、継続することは容易ではない。実際、5と6は現在行っておらず、1~4が継続されている。

 こうしたデータは宿泊事業者、観光施設事業者、まちづくり会社、道の駅、観光案内所、交通事業者等が活用可能である。データをどのように活用するかは、ユーザー側のマーケティングの知見や戦略性も必要になるのだが、すでに下記のような活用試行事例も出始めている:

活用事例1:あわら温泉エリア
 福井県あわら市に位置する北陸地方を代表する温泉地であるあわら温泉エリアは、「関西の奥座敷」としても知られている。あわら温泉エリアでは、SNS分析や宿泊予約の動向を把握することで、観光客の再訪意向や満足度をもとにサービス改善が図られた。特にInstagram上の投稿を分析して観光客の関心を「可視化」し、より効果的なプロモーション施策に結びつけた点が注目される。例えば、エリア全体の客室稼働率や販売可能客室1室あたりの売上を基に販売戦略を考え、実際の稼働率向上や売上向上に結びつけている宿泊施設が出てきている。

活用事例2:勝山市エリア
 中生代の地層から恐竜化石が発掘され恐竜博物館で有名な勝山市エリアには、越前大仏や勝山城博物館等の観光施設が複数存在するが、観光施設の予約データやアンケートを活用し、特定のコンテンツに関心を示す層に対してSNS広告を集中投下している。その結果、ウェブサイト訪問者数が前年比で大幅増となった。そして予約データを基に、仕入れやスタッフ手配を行い、利益率の向上を図っている事業者が出てきている。

活用事例3:生成AIの導入
 24年には、アンケートデータや予約データの分析に生成AIを導入。これにより分析速度と精度が向上し、エリアごとの課題抽出が効率化された。この事例は主要7カ国(G7)観光大臣会合の成果文書にも紹介され、国際的にも注目されている。

広く活用されるための工夫

 まずは各事業者が“使って”みて、徐々に経験を積んでゆくことが必要なのだが、福井県は中小事業者のDX導入ハードルを下げるため、以下のような工夫を施した。

• システムは無料提供し、勉強会を地域ごとに開催

• ダッシュボードは直感的で非IT人材にも分かりやすい設計

• アンケートキャンペーンによって早期に効果を可視化

• 観光庁との連携により制度的な信頼感を提供

 FTASのオープンデータは福井キャピタル&コンサルティング(C&C)のような支援機関にも活用されている。例えば、来訪者の地域属性から商品開発の方向性を導き出し、「鯖サンド」のような地域発のヒット商品につなげる取り組みも生まれている。


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