フランス・ガードナー安全保障担当編集委員
イギリス秘密情報部(SIS、通称MI6)のブレイズ・メトレウェリ新長官が15日、初めての公開演説を行った。長官は、「我々は今、平和と戦争のはざまで活動している」と述べ、MI6が取り組んでいる「網の目のように絡み合った安全保障の課題」について語った。
演説では、ロシアがもたらす多面的な脅威に焦点が当てられた。メトレウェリ氏は、ロシアが「戦争開始の水準をわずかに下回る戦術で、グレーゾーンにおいて我々を試している」と述べた。
また、ウクライナでの戦争に言及しながら、「攻撃的で、拡張主義的で、修正主義的なロシアの脅威」を強調。イギリスはウクライナのため、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に圧力をかけ続けると述べた。
10月1日に前任のリチャード・ムーア氏から長官職を引き継いだメトレウェリ氏は、MI6を率いる初の女性となった。
メトレウェリ氏は15日の演説で、空港や空軍基地の上空にドローンが出現した事例や、インフラへのサイバー攻撃を挙げ、これらがロシアによる、いわゆるハイブリッド戦争やグレーゾーン戦術の一例だと指摘した。
「(ロシアが)いかに脅し、恐怖を煽り、操ろうとするか。それを理解することが重要だ。なぜなら、それは我々全員に影響を及ぼすので」と、メトレウェリ氏は述べた。
また、情報戦を展開したとされるロシアの組織への最近の制裁に言及し、「混乱の輸出は、ロシアの国際的関与の方法において故障ではなく、それが特徴なのだ」と語った。
西側諸国の制裁は、ロシア経済に確実に打撃を与えおり、ロシアは貿易相手を中国やインドなど東方へとシフトしている。
だがこうした制裁は、ウクライナに領土と、究極的にはロシアへの忠誠を要求しているプーチン氏の戦争遂行への決意を、まったく変えられていない。
新技術の導入に意欲
メトレウェリ氏はまた、「21世紀を規定する課題」とは「ただ単に、最も強力な技術を誰が操るかではなく、それを誰が最大の知恵で導くかだ」と述べた。
「権力そのものは、こうした技術のコントロールが国家から企業、時には個人へと移るにつれて、より拡散し、より予測不可能になっている」
ロシアがもたらす脅威への対応には、MI6による全ての活動に技術と技術理解を組み込むことが必要だとし、特に新しい技術を学ぶことが重要な関心領域だと明言した。
1999年にMI6に入局したメトレウェリ氏は、技術・イノベーション部門「Q」の責任者を経てトップの職に就いた。Q課は、イアン・フレミングのスパイ小説に登場する架空の部門にちなんで名付けられたもので、実際のMI6の極秘部門。現場のエージェントが発覚や逮捕を避けながら、MI6職員の担当者と通信できるようにする装置や機器などを設計している。
メトレウェリ氏は、すべての情報部員に対し「研究室だけでなく、現場、そして諜報技術においても」駆使できるよう技術の習得を呼びかけた。
「我々は、人間の情報源と同じくらいコンピューターコードに慣れ、複数の言語と同じくらいパイソンに精通するようになる」
30年以上前から存在するプログラミング言語「パイソン」が例に挙げられたことを、意外に思う人もいるかもしれない。しかし、メトレウェリ長官の意図は、スパイの世界で働くことを選んだ人々には明確に伝わるだろう。
データが鍵となる時代において、スパイはもはや偽の身分に頼ることはできない。なぜなら、生体認証によって国境や検問所で数秒で正体を暴かれる可能性があるからだ。MI6は、依然としてその存在意義を証明する必要がある。
(英語記事 MI6 chief: 'We are operating in space between peace and war')
