2023年にノーベル平和賞を受賞したイランの人権活動家で、12日に治安部隊に拘束されたナルゲス・モハンマディ氏(53)について、家族は15日、モハンマディ氏が拘束時に暴行を受け、病院に搬送されていたことを明らかにした。
モハンマディ氏の財団によると、同氏は14日に電話で、「私服の治安要員に襲われ、警棒で頭と首を何度も殴打されて」、2度も救急外来に搬送されたと、家族に伝えたという。
イラン当局はこの件についてコメントしていない。当局は先にモハンマディ氏について、12日に東部マシュハド市で行われた追悼式で「挑発的発言」をしたため拘束したと説明していた。
ノーベル委員会や、今年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したイランの映画監督ジャファル・パナヒ氏らは、モハンマディ氏の釈放を求めている。
イランの人権擁護センターの副代表を務めるモハンマディ氏は、イランにおける女性の抑制と闘う活動と、人権の促進を評価され、2023年にノーベル平和賞を受賞した。
モハンマディ氏は人生の10年以上を刑務所で過ごしてきた。2021年からは、国家に対するプロパガンダ活動」や「国家安全保障に対する共謀」の罪で13年の禁錮刑に服していた。モハンマディ氏はこれらの罪状を否認している。
昨年12月には医療上の理由から、首都テヘランにある悪名高いエヴィン刑務所から一時釈放され、その後も治療を受けながら活動を続けていた。
警棒で繰り返し殴打、殺害の脅迫も
モハンマディ氏は12日、今月上旬に死亡したホスロウ・アリコルディ弁護士の追悼式で演説を行った。アリコルディ氏は自分の事務所で死亡しているのが見つかった。
ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)」は、アリコルディ弁護士が死亡した状況には「不審な点がある」として、死因究明のための独立調査の実施を求めていた。
モハンマディ氏の家族は、同氏が追悼式で約15人の私服要員に襲われ、髪を引っ張られたり、こん棒や警棒で殴打されていたと複数の目撃者から聞いたのだと、ナルゲス財団は説明した。
財団の声明によると、モハンマディ氏は14日夜、手短に電話で、「あまりに激しく強い殴打が繰り返され、2度も病院の救急外来に搬送された」と家族に伝えた。
「自分が今、どの治安当局によって拘束されているのかさえ分からず、この件について何の説明も受けていないと、(モハンマディ氏は)強調していた。電話をかけた際の同氏の健康状態はよくなく、体調がすぐれない様子だった」と、声明は付け加えた。
ナルゲス財団は、モハンマディ氏が当局から「イスラエル政府に協力」していると非難され、「お前の母親を喪に服させてやる」などと殺害の脅迫も受けたと話したとしている。
声明によると、モハンマディ氏と共に追悼式で拘束された2人の活動家、セピデ・ゴリアン氏とプーラン・ナゼミ氏も私服要員から殴打されたという。
マシュハドのハサン・ヘマティファル検察官は13日、拘束された39人にモハンマディ氏が含まれると記者団に述べた。
同検察官は、アリコルディ弁護士の兄弟が追悼式の参列者に対し、「規範に反するスローガンを叫ぶ」よう促し、「秩序を乱した」と主張した。
ノーベル委員会は12日の拘束を受け、同日に「ナルゲス・モハンマディ氏に対する、今日の残虐な拘束を深く懸念している」と表明。イラン当局に対し、「モハンマディ氏の所在を直ちに明らかにし、同氏の安全と尊厳を確保し、無条件で釈放」するよう求めた。
イラン人映画監督のパナヒ氏やモハマド・ラスロフ氏、十数人の活動家は共同声明で、アリコルディ弁護士の追悼式での出来事は「自由と安全をめぐる憂慮すべき状況をはっきり映し出すもので、ひいては今日のイランにおける当局の非効率性と説明責任の欠如を鮮明に反映している」と述べた。
(英語記事 Iranian Nobel laureate taken to hospital after 'violent arrest', family says)
