目ざとい言語学者たちは、カーニー政権の予算案などに「analyse」(分析する)といったイギリス式のスペリングが使われていると気がついた
カナダの複数の言語学者は11日、マーク・カーニー首相に対し、公式文書にイギリス式ではなくカナダ式のスペリングを利用するよう求めた。たとえばこの「利用する」も、カナダ式とイギリス式ではつづり方が違う(カナダはutilize、イギリスはutilise)。
カナダ政府は数十年来、「カナダ英語」を標準言語として使ってきた。しかし、複数の言語学者や編集者は、予算案を含むカーニー政権のさまざまな文書に、イギリス式のスペリングが使われていると、目ざとく気づいた。
たとえば「globalisation」(グローバル化の意味。カナダ式はglobalization)や、「catalyse」(触媒作用を及ぼすの意味。カナダ式はcatalyze)といった具合だ。
11日付の公開書簡で、専門家たちは、「自分たちの国の歴史、アイデンティティ、誇りに関わる問題」だとして、カナダ英語にこだわり続けるようカーニー氏に求めた。
専門家たちはカナダ英語について、地理的・歴史的背景からアメリカとイギリスの両方の影響を受けた、独特な言語だと指摘している。
カナダ英語には、冬用の帽子を表す「toque」や、トイレを意味する「washroom」など、カナダ特有の言葉「カナディアニズム」も存在する。トイレはアメリカ英語では「bathroom」、イギリス英語では「loo」となる。
カナダ式とイギリス式のスペリングで大きく違うのは、「utilize/utilise」(利用する)、「analyze/analyse」(分析する)のように「~アイズ」で終わる単語で、「z」と「s」のどちらを使うかという点だ。カナダではアメリカと同じで「z」、イギリスでは「s」を使う。
一方で、カナダ英語がイギリス式を取り入れているものもある。例えば、「色」を意味する単語は、アメリカ式の「color」ではなく「colour」と書く。
しかし、車の「タイヤ」は「tire」であって、イギリス式の「tyre」は決して使わない。
BBCニュースに共有された公開書簡の中で、言語学者たちは、カナダではカナダ英語が認知され、広く用いられていると指摘。「もし政府が、ほかのスペリング体系を使い始めれば、どのスペリングがカナダ式なのか混乱を招く恐れがある」と主張している。
また、カナダ英語の使用は「『戦う』(elbows up、直訳は肘を張る)姿勢を取る最も簡単な方法だ」ともしている。
「elbows up」という表現は、もともとはアイスホッケー用語。アメリカの関税措置や、「カナダがアメリカの51番目の州になる」というドナルド・トランプ米大統領の発言に対するカナダの抵抗を表すためにカーニー氏が使った。
この書簡は、カナダの複数の大学の言語学教授4人と、カナダ英語辞典の編集長が署名し、編集者団体「エディターズ・カナダ」が送付した。
BBCは、カナダの首相官邸にコメントを求めている。
書簡に署名したブリティッシュコロンビア大学のシュテファン・ドリンガー教授は、「言語はアイデンティティーを表すものなので」、自分やほかの人たちはこの問題に強い思いを抱いていると述べた。
「首相官邸が今になって、半世紀以上も時計を巻き戻すようなことをするのは、逆効果に思える」とドリンガー教授はBBCに語り、カナダの言語がイギリスの植民地時代からいかに進化してきたかについて言及した。
エディターズ・カナダのケイトリン・リトルチャイルド会長によると、首相官邸によるイギリス英語の使用について、注目すべき事例が少なくとも2件あった。
一つ目は、11月に発表されたカーニー政権の予算案。もう一つは、カーニー氏がトランプ氏と会談した米ワシントン訪問後の10月に、カナダ首相官邸が発表した報道発表だという。
リトルチャイルド氏は、イギリス英語の使用が「誤解」なのか、それとも「意図的な指示」によるものなのか判断するのは難しいと述べた。
トロント大学の著名なカナダ人言語学者で、書簡に署名したJ・K・チェンバース教授は、カーニー氏が英イングランド銀行の総裁を7年間務めるなど、大人になってから長年をイギリスで過ごしたことに言及した。
「言うまでもなく、彼は(イギリスに)いる間、気取ったあれこれを身につけたのだろう」が、「幸い今のところは、刑務所(jail)と書く際に、gaolと書くまでには至っていない」と、チェンバース教授は電子メールで述べた。
「gaol」はイギリス英語で刑務所を意味する。
(英語記事 Canada's Carney called out for 'utilizing' British spelling)
