高度人材の育成には、教育の軸足を現実社会に根差した「実学(未だ解のない複雑な課題への対応)」へとシフトさせ、学習者の心に火を灯すことが不可欠である。そのためには、この実学に根差した「問題解決型・課題設定型学習(PBL)」を、あらゆる教育段階の核に据えるべきだ。この思想を国家規模で体現し成功しているのが台湾である。台湾が2019年から導入した新学習指導要領「108課綱」の核心である「素養教育」は、まさにこの実学主義を具現化したものである。
台湾では試験至上主義を排除し、地域や産業のリアルな課題をテーマに、学生自らが問いを設定し対話しながら自律的に学ぶ環境を社会全体で構築している。対する日本には、「100点満点からの減点評価」や過度な正解主義、失敗を恐れる風土がある。
この病理を打破するには、暗記型試験を段階的に廃止し、授業の大部分をプロジェクト型学習に置き換え、学生が試行錯誤できる環境を提供するべきだ。自ら課題を設定し他者と協力する原体験が、社会の設計力を飛躍的に磨き上げる(表)。
台湾モデルにみる
「高度人材育成」
台湾の成功を象徴するのが、国立陽明交通大学をはじめとするトップ7校に設置された「国家重点領域研究学院」である。筆者が所属する「国立陽明交通大学・産学創新研究学院」もその一つであり、大学内における半導体エコシステムにおいて産業界と最も密接な連携の下に運営されている学院である。そこでも、幼少期からの批判的思考教育を土台に、以下の3つのダイナミックな「アーキテクチャー」改革が実行されている。
①法制面の抜本的改革(産学創新条例)
21年制定の「産学創新条例」により、大学を縛る行政規制を大幅に緩和し、研究学院に独立した運営権を付与した。トップ企業からの巨額出資と政府補助金を「1対1のマッチングファンド形式」でプールし柔軟に運用できる自由度が、世界標準の研究環境を支えている。
②人文学(Humanity)と先端科学の徹底的な「分離融合」(分離融合:単に文系と理系の枠組みを混ぜ合わせる「文理融合」にとどまらず、これまで切り離されていた異分野や二項対立の概念を根本から結合させ、全く新しい価値やパラダイムを創出することを指す。)
医学系トップの陽明大学と理工系トップの交通大学が合併した「国立陽明交通大学」では、バイオ、AI、半導体を融合した超領域的探究が行われている。文理の壁を破壊し、技術を人間社会にどう調和させ未来をデザインするかという思想が根底にあり、かつての日本のように優れた技術を持ちながらシステムデザインを描けずに敗退した罠を乗り越える力を養っている。
③博士課程人材の「義務化」によるR&Dの高度化と対等な産学連携
すべての共同研究計画に「最低1人以上の博士課程人材をチームに含めること」を厳格にルール化している。最先端の試作環境を学生に開放し、企業と大学が対等に競い合う実戦環境により、学生は指示を待つ作業員ではなく「未来の産業を自ら設計するアーキテクト」へと変貌する。
さらに、少子化を背景に世界中から優秀な留学生を戦略的に呼び込み高度人材として定着させる国策も推進されている。

