サイバー空間の権力論

2014年8月14日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

 しかし、より大きな問題は次のことだ。中国が海外製品を疑うのであれば、当然自国の製品を普及させることで対抗しなければならない。だとすれば、海外製品の締め出しは中国産のIT製品の普及を同時に意味するだろう。これだけなら単純に経済問題の範囲だ。しかし問題はより深い。中国が自国製品にこだわればこだわるほど、中国は内向きに展開する可能性がある。それは、世界を疑う中国が、それ故に国内のより強い結束を希求するからだ。そうなれば、世界経済や国際政治における中国の立ち位置は変化するどころか、中国が国際情勢に関心を向けなくなる可能性も考えられる。なぜなら、中国は10億を超える人口と世界の工場たる生産力で自国民を賄えるから。それは一歩間違えば、中国の覇権ではなく、中国の国際政治からの離脱と、世界情勢を無視した単独プレーに中国が走ることを意味しかねない。

独自路線を打ち出す中国?

 なぜ筆者がこのような不安を抱くかと言えば、近年の中国のインターネットに対する態度が変化してきているからだ。本連載第8回( http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3892)でも論じてきたが、事実上インターネットの管理権限に影響を及ぼしているアメリカは、2015年にドメイン管理組織ICANNとの契約更新をしないと発表している。これは、今まで良くも悪くもインターネットの管理に一定の影響力を持ってきたアメリカの後退を意味する。

 アメリカがインターネットの監督としての地位を降りることになれば、その後のインターネットの管理は、マルチステークホルダーと呼ばれる国家を代表とする様々なステークホルダーで管理することになる。だが、その時に中国がインターネットの管理に対して異を唱えれば、中国のインターネットからの脱退、あるいは、中国内サーバーへのアクセスを中国政府の承認なしには不可能にさせるなど、「インターネットはひとつ」というインターネットの根幹にある思想を分断させることにつながりかねない。現にそれまでアメリカのインターネットへの影響力に強く反発していた中国は、最近ではあまりインターネット管理に関心を持っていないと取られる態度が見える。すなわち、アメリカへの反対ではなく、中国は独自路線で行く、という方向を中国は打ち出している可能性がある。

 いずれにせよインターネットの分断化は、最悪の場合ネットサーフィンにも国家ごとのパスポートが必要になることを意味する。そうなれば、インターネットによる取引や、世界中の人々とつながるというインターネットの思想は変質せざるを得ない。実際、中国や中東の独裁国家などでは今もインターネットの検閲が厳しいが、中国ほどの大国が自国製品に取り囲まれた生活を送るようになれば、国際社会からの離脱傾向的態度をとってもおかしくはない。

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