25年の世界のディーゼル油の輸出地域・国のシェアは、図-7の通りだ。ロシアの輸出量は大きいが、現在の価格高騰には中東からの輸出数量の減少が与えた影響がより大きい。
国際エネルギー機関などのデータでは7月からディーゼル油の輸出を原則禁止したロシアの8月の輸出減少量は、25年実績との比較で日量約60万バレルだった。中東諸国からの輸出数量の減少は80万バレルを超えている。
ロシアの製油所への攻撃停止では、効果が薄いと理解したのか、あるいはロシア、ウクライナ両国が攻撃を止めなかったためか、トランプ大統領は、米国からのディーゼル油の輸出禁止を考えていると9月22日に発言した。直前にはアイオワ州の共和党上院議員がディーゼル油の輸出禁止をSNSで求めていた。
輸出禁止の効果は疑問
9月23日に、米国の政治専門紙ポリティコが、トランプ政権は90日間の輸出禁止を検討中と伝えた。
一方、ライト・エネルギー長官は、禁輸措置には反対、自主的な取り組みで対応との立場を明らかにした。また、エネルギー企業、団体も禁輸措置に強く反対との立場を表明した。その理由は、米国の製油所の位置的な偏りと国内輸送能力にある。
米国は原油を輸入し、国内産原油と共に石油製品を精製している。ベネズエラ、中東から原油を輸入するため製油所はメキシコ湾岸に多く建設された。
シェール革命により石油の自給率が100%を超えた今も軽質油のシェールオイルを輸出する一方、製油所が必要とする中・重質油をカナダ、ベネズエラなどから輸入し精油している。
米国の製油所の精製能力の内54%はメキシコ湾岸に位置し、湾岸の製油所はディーゼル油を輸出している。国内にも供給しているが、パイプラインの能力と米国船しか利用できない国内輸送に関する法律的な制約により、輸送量には限界がある。
米国の平均的製油所では、ディーゼル油が30%、ガソリンが46%、ジェット燃料が11%精製される。メキシコ湾岸の製油所がディーゼル油を輸出できなくなっても、限界がある国内輸送量は増えない。製油所の石油製品の精製比率の変更にも限度がある。
ディーゼル油が貯蔵できなくなった時点で、製油所は稼働率を下げ対応するしかない。その結果、ガソリンとジェット燃料の精製量も減少し、国内価格の上昇が引き起こされる。
エネルギー業界が反対する大きな理由は、禁輸してもディーゼル油の価格がメキシコ湾岸地区以外の地域では下がる可能性はなく、製油量の減少を招き全米でガソリン価格の値上げも誘発しかねないというものだ。ディーゼル油を輸入している東部では、米国の禁輸によりディーゼル油の国際価格が上昇すれば、販売価格が値上がりする。
共和党の強力な支持基盤、農業とエネルギー業界の板挟みになった状態だが、トランプ大統領は、9月27日、フォックスニュースに対し「禁輸を非常に真剣に検討している。実施する可能性がある」と述べた。
実施されれば、現在ディーゼル油の輸入の半分以上を米国に依存している欧州諸国ではディーゼル油が値上がりする。この事態を避けるため、G7国はディーゼル油を中心に今後4カ月間に最大1億バレルの放出を決めた。
禁輸は避けられたが
トランプ政権はドイツとフランスに対し石油の備蓄を放出しないのであればディーゼル油の輸出を禁止すると脅したと伝えられている。
欧州連合(EU)の8月の消費者物価上昇率は3.2%だ。米国からの輸出が途絶えれば、さらにインフレが加速されることになる。
米国東部時間10月2日午前に、G7国が最大1億バレルの石油の放出に合意したと報道された。最初の20日間はディーゼル油を中心に放出される。また、製油所の稼働を高める策も実施される。
トランプ大統領は、欧州が持つ大量のディーゼル油の備蓄が放出されると発言している。欧州諸国がディーゼル油の域内供給を増やせば、米国からの輸出量が減り米国内のディーゼル油価格も下がると大統領は期待しているのだろう。
しかし、上述の通り米国内の石油供給の事情があり、価格は多少下がるが、下落幅は限定的との見方が強い。
フランスのマクロン大統領は、「G7国は、エネルギー、石油製品の貿易を制限しないことで合意した」とSNSで発信した。トランプ大統領もこれを認めた。
トランプ大統領にはEUの「同盟国」のことを真剣に考えている様子はまったく見えない。米国の好感度とトランプ大統領への信頼度が欧州諸国で下がるのも理解できる。トランプ大統領は独裁者を好む傾向にあるが、強権政治のロシアとか中国が「同盟国」なのだろうか。

