中国の戦略目的の一つは、主要な欧州諸国に中国の言う「核心的利益」を尊重させることである。これは、確かに、欧州にとって呑み込みにくい苦い薬である。欧州の指導者達は、人権の推進に強い誇りを持ってきたが、当初、人権問題について中国の指導者を時に困らせたとしても、中国との友好関係を維持し、ビジネス上の取引を行うことは出来ると楽観していた。しかし、欧州の指導者達は、中国の人権問題についての一つのジェスチャーとしてダライ・ラマと会見したことにより、見通しの誤りを、痛烈かつ遅まきに悟ることとなった。中国はダライ・ラマとの会見に激怒し、ハイ・レベルの接触及び商取引を停止し、主要な欧州の指導者達が内々に過ちを認め、再び中国を怒らせることはしないと約束するまで続けた。これまでのところ、中国のこの戦術は100%の成功を収めている。キャメロン、メルケルを含む、欧州の指導者達は、このような取扱いを受けて、ダライ・ラマに会いたがらなくなった。最近では、ダライ・ラマが歓迎されるのは、日米だけになった。
欧州の外交政策に影響力を与える中国の能力を試す次のテストが、安全保障面にあることは明白である。10年前に、中国は、天安門事件後の武器禁輸措置を解除するようEUに働きかけたが、米国の反対により失敗した苦い経験を有する。中国がこの問題で欧州を再び追い詰めようとする動きは見られないが、欧州諸国が東アジアにおける地政学的緊張の高まりや米中関係の継続的な悪化にどのように対応するかについては注目を要する。これまでのところ、欧州の指導者達は、中国の近隣諸国との領土紛争については慎重な姿勢をとっている。恐らく、中国の主張する「核心的利益」を尊重しているのであろう。欧州の主要国の何れの指導者も中国の行動を批判してはいない。北京は喜んでいるはずである。
米国としては、中国‐EU間の良好な関係と、欧州が中国の圧力戦術に屈する傾向に不満を抱きつつも見守る他ない。短期的には、米国に出来ることは無い。欧州の指導者達は現実主義者であり、経済を改善するために何でもすることが最優先であり、それが出来て初めて、筋の通った対応が可能になると考えているのである。生憎、中国の指導者たちもそのことは良く知っている、と論じています。
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欧州と中国の関係の現状を良く説明している論説です。欧州にとっては、経済の再建が最優先の課題であり、そのために中国の経済力を利用したいところであり、また、中国からの戦略的脅威に曝されている訳ではないので、政治・外交面で中国の立場を出来るだけ尊重する姿勢をとっていることが良く分かります。
しかしながら、今後、東アジアが世界経済発展の中心になることが期待される中で、価値観を異にする中国が圧倒的な影響力を握ることは、欧州の長期的利益に適うことではありません。欧州諸国としても、現在の、ルールに基づく国際秩序から最大限の利益を得ているのですから、それに対して大きな脅威となる、中国の軍事力強化に大きな効果を生むような武器や技術の輸出は控えるなど、対中関係での一定の自制をすることが、長期的には自分たちのためになると認識する必要があります。そして、EUの対中武器輸出再開問題は、日本にとっては、一大関心事です。この論説からも分かる通り、日本の欧州に対する働きかけが奏功するには困難な環境にありますが、それでも、働きかけを続けていく必要があります。
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