2024年5月16日(木)

ヒットメーカーの舞台裏

2009年7月1日

 道草を食ったものの、東芝らしく形状を追求した10ワットへの再挑戦が始まった。電球の球体はグローブと呼ばれる。口金と接するグローブの部分が太くなるのは、U字型やらせん状に加工した蛍光管が挿入できる直径を確保しなければならないなどの事情による。グラスに口径以上の大きな氷を入れようとしても入らないのと同じだ。

アイデアを閃かせるため考えを書き起こす

 夢に出てくるまで「しょっちゅう考えること」を続けた。筏は思考が煮詰まると、その考え方を文章にする。思考を視覚化することで、何が足りないのか〝抜け〟が一目で分かるからだという。こうしたアプローチの結果、筏はグローブの外周が大きくなる部分のスペースを有効に使うべきという方向性をつかんだ。東芝は蛍光管の形状には、伝統的にU字型を採用してきた。従って、グローブの外周が大きい部分の内部はスカスカだった。この空きスペースを有効利用すれば、蛍光管は太く長いものが使えて発光の効率化、つまり消費電力の低減が図りやすくなるという考え方だ。

 筏は先端部が花のように広がったタイプなどを考案し、試作を繰り返した。最終的にはソフトクリームのように渦巻いた「キノコ形」に行き着く。だが、これではグローブに入れようがない。ここからの発想が面白い。筏はグローブを外周が最も大きい真ん中辺りで、スパッと胴切りにすることにした。2分割したグローブにまず蛍光管を収め、その後、2つのグローブを接着するというものだ。こうして2分割・組み立てという電球ではかつてない工程が採用された。「そんなすごいアイデアでもありません。入らないので、割るしかなかった」。筏は、コトもなげに振り返る。

 加工性や安全性から、グローブにはガラスでなく高機能樹脂を採用した。しかし、上層部からは電球に入ったつなぎ目の「横線を何とかしてほしい」との要請も出て、ゴールはまた遠のく。筏は胴切りでなく、縦割り2分割などさまざまに試作。結局、加工法の工夫などによって線が目立たない方式に漕ぎ着けた。

 中国での量産段階でも辛酸をなめた。形状が複雑なために蛍光管の不良率が当初は9割にも達したのだ。筏はどこまでも飄々としていて、苦心談にはむしろ口が重い。「自由にやらせてくれる社風」が、筏の持ち味を存分に引き出し、本人も苦を苦と思わないように見える。東芝は昨年、環境対策の一環として10年度での白熱電球の生産停止を業界でいち早く決めた。背景に、電球形蛍光ランプの長足の進化があるのはいうまでもない。(文中敬称略)


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