2024年4月23日(火)

Wedge REPORT

2014年11月7日

 こうした社会的投資の促進政策によって、英国の社会福祉の現場では様々な社会イノベーションが生まれている。あるホームレスシェルターでは、路上生活に慣れたホームレスが窮屈なシェルター生活を嫌がって短期間で路上にもどる現状に、ケースワーカーの一人が、通常の行政予算では認められない「贅沢品」であるテレビの設置を提案した。

 もし定住が促進され、職業訓練等のプログラム参加率が上がるのであればと、投資家の賛同を得てテストケースとしてテレビが導入された結果、予想通り定住率、社会復帰率ともに上昇傾向が見られ、テレビ導入の費用に対する、高い「投資対効果」が認められた。英国では受刑者再犯防止、児童養護、若年失業等、予防的措置を実施する社会的事業において、民間資金の導入によって様々な社会イノベーションが起こり、社会の生産性を高めている。

「社会的投資」のグローバルな潮流

 米ロックフェラー財団が設立したGlobal Impact Investing Network(GIIN)が、JPモルガンと共同で発表した10年のレポートでは、社会的投資市場は「エマージング・アセット」として定義され、その後10年間で4000億ドル(約33.6兆円)を超える成長市場になると推計された。社会的投資はすでにグローバルに大きな潮流となっている。

 こうした社会的投資の動きがある一方で、財務的リターンを期待せず、社会的リターンに注目をして慈善的資金を投下する「ベンチャー・フィランソロピー」(VP)という社会的投資の手法も、それまで「広くあまねく平等に」社会に善きことを行ってきた助成財団や企業CSRの注目を集めている。

 VPは、あくまで社会課題の解決という「成果」を第一義にし、少数の有望な社会的事業に集中的に資金を投下、ハンズオンでの支援も行うベンチャー・キャピタル的な投資的手法を導入したモデルである。

 VPは、投資の結果としての事業成長による社会課題の解決の進展が、重要な経営指標として綿密に検証される。また、資金の提供だけではなく、VC(ベンチャー・キャピタル)と同様に、事業の成長のために必要であれば、役員の派遣を含む人的支援や、社外ネットワークの提供を行うことでテコ入れをし、その社会的な「投資」目的の達成を図る。


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