2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2014年11月7日

 VPとインパクト・インベスティングは、資金提供の手段が投資か寄付かというところが異なるが、投下された資金1あたりの社会的インパクトを最大化する投資活動を行う手法は共通している。

 90年米国で発祥したこのモデルは、2000年代には欧州に広がり、04年に設立された「欧州VP協会」は14年現在25カ国に170の加盟組織、さらに10年代にはアジアでも多くの組織が設立され、11年にシンガポールで設立された「アジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク」も日本を含め26カ国に150組織が加盟するなど、大きな広がりを見せている。

 こうした社会的投資の動きを支えるのが、社会的インパクト評価の枠組みである。通常の財務概念では赤字の非収益事業でも、実際には外部価値とされる公的負担等を含めれば、トータルの価値では大きな社会的便益を生み出すケースも多い。欧米では、例えば「社会的投資収益率」(Social Return on Investment, SROI)等のインパクト評価手法が普及しつつある。

 こうした新しい評価モデルの社会的実装が進むことにより、「右手で収益を追求し、左手で社会貢献をする」といった従来型のモデルの矛盾が是正され、マイケル・ポーターが提唱するようなCSV(Creating Shared Value)のように、事業活動そのものが生み出す社会価値の評価を行うことが可能になる。

日本でも成長するソーシャル・ビジネス

 こうした「新興投資市場」としてのソーシャル・ビジネスは、日本での社会的認知は高くはないが、実際には多くの優れた取り組みがある。

 例えば、日本では2000年から施行された介護保険制度の発祥は、民間の社会福祉法人が、90年代に介護事業を無償ボランティアから有償事業への転換を図ったことがその発端だ。民間が開発した介護点数制度を、後に厚生労働省が介護保険の原型として取り入れ、民間企業の参入を図り、13年には9.6兆円という巨大市場に成長した。

 コンサル、投資ファンドとキャリアを重ねてきた神山晃男さんが昨年6月に設立した株式会社「こころみ」(東京都渋谷区)の高齢者見守りサービス「つながりプラス」もその事例と言える。週2回、担当者がひとり暮らしの高齢者に電話をかけ、離れて暮らす家族に会話をレポートする。直接家族に伝えにくい体調のことなども話せる、と好評で、定期的に話すことで変化がつかめ、認知症の早期発見にも役立つ。企業の福利厚生としても利用され始め、来年中には黒字化を見込んでいる。

 こうしたサービスは香港の社会福祉法人「長者安居協会」が、収益事業として同様なサービスを展開、香港の全高齢者の10%以上を顧客とし、大きな産業になっている先行事例があり、日本でも新たな社会的ニーズとして成長が見込まれる。


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