相変わらず対日外交では国民の目を意識した言動が目立ったが、事前に基本合意を取り付け、懸案である尖閣諸島問題と靖国参拝問題で日本側から譲歩を引き出し大々的に国内で報じたのもその一環である。
基本合意が公表された直後、CCTV(中国中央テレビ)は人民ネットの記事を引用し、〈(日本が)初めて尖閣諸島問題で争いを明文化した意義は重大だ〉と評し、会談後には「日本の求めに応じて会見した」と報じている点にもそれは表れている。
ホストがニコリともしない会談の映像は、こうして生まれたのだが、日本側も習氏の子供っぽさばかりを責めるわけにはいかない。
日本側のビジョンが見えない
そもそも「今回の会談はAPECのホスト国だから(日本の首相と)会談せざるを得ない」といった中国の事情につけ込んだ形で実現したもので、中国側には不満の残るものであった。
加えて日本側の意図をはかりかねる事情も働いていた。
「日本側は、はたしてどんな関係を中国と築きたいのか。はっきり示さないまま、とにかく首脳会談だけやりたいと迫ってくることに対し、不信感があったのは間違いありません。党の一部には、最悪、安倍政権の間は日本との関係を改善しなくても良いという考えさえありましたからね。われわれとの関係をどうするのか具体的なビジョンもないのに、『会えた。良かった』とはしゃぐことに対し冷や水を浴びせたい気持ちになるのも当然でしょう」(同前)
戦後レジームの転換に言及し、村山談話に疑問を投げかけ中国を挑発しただけでなく、中国包囲網とも受け止れる地球儀外交を展開したうえで「常に対話のドアは開いている」と首脳会談ができないのは中国のせいだといわんばかりの対応をしてきたというのが中国側の安倍外交に対する評価だ。
それなのに首脳会談をするためとなれば、「歴代内閣の歴史認識を引き継ぐ」と大きくトーンダウンさせる。そうであれば、また平気で「心の問題だから」と靖国神社に参拝するのではないか。ならば中国にとって首脳会談はリスクでしかないことになる。