他方、「計算能力」を向上させる上で鍵となるのはクラウドである。大手自動車メーカーに在籍経験もある、インテル戦略企画室オートモーティブユニットの野辺継男氏はこう指摘する。
「クラウドがいかに凄いか気付いていない。無線通信の速度は、20年ごろから実用化される5Gでは、現在の光ファイバーと同程度になると想定して、自動運転を考えた方がよい。将来的に、画像認識や、10秒以上先、100メートル以上先の道路環境の推定等は、不特定多数のクルマから集めたデータをクラウド上に宿る人工知能を利用して解析し、実現する事も十分想定される」。
これまでも、半導体の性能は、ムーアの法則どおり、2年で約2倍に増加してきた。クラウドでデータセンターに接続し、CPU(中央演算処理装置)の能力が向上するほど、完全自動運転の未来が近づいてくる。
自動車のバイワイヤ化
存在感を増すIT
ただ、現在のところ、関係者からは、IT企業が完成車メーカーに代わって自動車業界を席巻するかもしれないといった危機感は聞こえてこない。10万点もの部品から構成される自動車は、すり合わせ型ものづくりの頂点に位置しており、安全規制と安全装備、販売、アフターサービスのネットワークまで、巨大なエコシステムが存在する。IT企業がそれを担うのは現実的ではなく、その気もないだろうと見るからだ。
内閣府で、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「自動走行システム」プログラムディレクターを務め、トヨタ自動車顧問でもある渡邉浩之氏は、IT企業が自動車を製造、販売する未来は否定した上で、「高度な地図情報やITがないと、車が売れないという時代が来る可能性はある」と語る。
自動運転技術の開発が加速してきた大きな要因は、車両制御機能の電子化(バイワイヤ化)にある。つまり、現在の自動車は「ITで制御が可能」(慶應義塾大学で自動車工学を研究する大前学教授)となっている。ドライバーがアクセルやハンドルを操作せずとも、電子的に制御することによって、自動車を走行させることが可能となったのだ。