「今回のエボラのアウトブレイクでは、分かっていることも多い一方、分からないことも多い。今年は、これまで30年以上も現地に人を送り続け一例の二次感染者も出さなかった国境なき医師団(MSF)のスタッフからエボラ患者の報告が相次いでいる。エリック・ダンカンのフィアンセや、リベリアにあるファイアストンのゴム農園のケースも、分からないながらも注目すべき点だ」と小林氏は言う。
エリック・ダンカンは、アメリカで初めて発症し唯一死亡したエボラ出血熱の症例である。ダンカンをほんの数時間ケアをしただけの看護師2名が発熱してエボラ陽性となったのに対し、同棲していたフィアンセを含む同居親族4人はすべてエボラ陰性だった。特に、フィアンセはダンカンの下痢や吐瀉物などの片づけもしていた。知ってのとおり、通常であればエボラは、患者の体液へ少しでも接触しただけでも感染する。それなのに、なぜか、フィアンセはエボラにならなかった。
感染しても発症しない人
日本のメディアではあまり注目されていないことのひとつに、エボラ出血熱には感染しても無症状の人が相当数いるという報告がある。今年10月末、改めてこのことを指摘した投稿が有名科学雑誌『ランセット』へ掲載され(注1)、海外の研究者たちの間で議論を沸き起こした。
このような報告はすでに2000年からいくつかあるが、例えば、今回と同じ、エボラ・ザイール株によるアウトブレイクが1996年ガボンで起きこっている最中、手袋等をせずに患者の看病を行った家族など、患者との明らかな濃厚接触があったがエボラの症状を呈さなかった24人を調べたところ、11人(46%)に感染の形跡(エボラに対する免疫)が確認されたという報告がある(注2)。
要するに、エボラは濃厚接触したからといって必ず感染するわけではないし、感染したからといって必ず症状がでるわけでもない。人によっては感染しづらかったり、感染しても症状を示さなかったりと、ウイルスにかかる人の個体差は大きいようだ。ただし、こういった「エボラにならない人」がコミュニティの中にどの程度いるのかについては不明で、1%という報告や10%、17%などレポートの数字はまちまち。同じコミュニティで調査した場合でも、アウトブレイクの最中、アウトブレイクの直後、アウトブレイクの2年後とでは結果が異なり、エボラに対する免疫力が感染後、いつまで持続するものなのかについても不明となっている。つまり、「エボラにならなかった人」が、「これからもエボラにならない人」であるかどうかはよくわかっていない。
となると、ダンカンのフィアンセは、「濃厚接触してもエボラに感染しない人」であった可能性がある。もちろん、検査したタイミングでは陰性ではあったが、今検査しなおせば陽性である可能性もあり、そうなれば「感染はするが、エボラにならない人」の方である可能性も出てくる。
専門家の間では、エボラ出血熱の場合、感染しても発症せずに免疫をもっている人(不顕性感染者)に感染力は無いとする見方が強く、不顕性感染者を見つけてエボラ患者のケアにあたらせればよいという主張もある。また、今後、彼らがコミュニティの中の盾となり、エボラの感染拡大が鈍っていくことも期待される。