2024年12月22日(日)

【緊急特集】エボラ出血熱

2014年11月8日

 マスク姿の60代男性患者が、東京都町田市にある病院を訪れたのは、11月7日午前中のこと。39度の発熱に扁桃腺の腫れ、咳の症状もあったため「扁桃炎」、要するに「喉の風邪でしょう」との診断を受けた。日本中の内科外来で見かける、ありふれた風景だ。

 ところが、その後、この病院に検疫所と保健所から電話が入った。男性は約1か月間リベリアに滞在の後、10月26日に出国、11月4日に帰国したばかりであるという。病院は急きょ休診とし、次亜塩素酸ナトリウムとエタノールで院内を消毒した。男性にエボラ患者との接触歴は無く、インフルエンザは陰性。男性患者が来たときの院内には、医師、看護師1人、医療事務1人、患者を含めた14、15人がいたが、他の患者のリストアップも済ませ、厚労省の指示を待った。 

(C)Thinkstock

 7日夕方ころの取材に対し、病院の医師は、「厚労省の指示どおりにやっています」と回答。塩崎恭久厚生労働大臣も夜の記者会見で、10月28日に発表した「帰国後3週間は、体温を1日に2回チェックし、異常があれば保健所や検疫所に伝えること」という呼びかけが効を奏し、疑い患者が予定どおり発熱と体調不良を自己申告したことを高く評価した。 

 確かに、「帰国後3週間ルール」を喚起し、疑い例を早期発見できたという意味で、政策は成功したかにも見える。7日夜には迅速検査で男性の溶連菌感染が判明し、一応は胸をなでおろしたが、改めて痛感されるのが「自己申告のハードル」だ。

 一般人に感染が広がる前に患者を見つけるという意味において、保健所や検疫所への自己申告はある程度の効果はある。しかし、今回のケースで、渡航歴や接触歴のある患者が検疫や保健所には申告をしても、診察をする医療者にそれを申告しない場合があることがわかった。医療現場へも、「エボラ疑い患者が来たら、エボラ患者として扱う」という指針は概ね伝わってはいるが、渡航歴や接触歴の申告が無ければ、医療者はいくら正しい着用方法をマスターしたところで、防護服を着用することは無く、感染リスクを減少させることは出来ない。自己申告にたよるエボラ封じ込めの隠れた問題点は、医療者を十分に感染から守ることができないことだ。

内科医より外科医が心配

「こういうニュースを聞いて本当に怖いと思っているのは、エボラ患者を最初に診る可能性のある内科医ではなく、外科医や看護師じゃないですか」都内にある有名総合病院に勤める医師はこう言う。

「発熱があり原因不明の出血がある患者さんは、エボラ以外にもいます。僕もそういう人の処置をすることがある。でも、その人にアフリカ渡航歴があるかを聞くことなんてありません。通常の手術衣と手袋だけで、知らずに手術や処置をしてしまうかもしれないかと思うと・・・」と続けた。

 最初にエボラ患者に接する確率は高いが、体液に触れる機会の少ない内科医はまだいい。患者からの自己申告が無いことで最初にリスクを負うのは、血液に触れる手術や手技のある外科医や、採血などの作業を行う看護師だ。

 7日夕方には、60代男性に続いて関西国際空港で、発熱した20代のギニア人女性がエボラ疑いで隔離された。発熱以外の症状は明らかにされなかったが、マラリアの迅速検査で陽性と判明。60代の日本人男性も20代のギニア人女性も、エボラの簡易検査で陰性がでたため、とりあえず、一安心となった。

 溶連菌やマラリアのように感度が比較的高い迅速検査のある疾患ははまだいい(注:文末参照)。発熱には原因不明のものも多く、人は迅速検査の存在しない無数のウイルス感染でも発熱する。それがいわゆる確定診断名のつかない「かぜ」だ。アフリカからの長旅の後、単なる疲労から発熱する人もいる。エボラ出血熱はこれらさまざまな原因による発熱と併発する可能性もあることを考えれば、他の検査で陽性となってもエボラの検査は必ず実施する必要がある。 


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