2025年3月23日(日)

災害大国を生きる

2025年2月10日

 「日本の避難所の環境は先進国のものとは思えません。もはや、被災者に対するハラスメントです」

2024年1月3日、石川県輪島市の被災者。プライベートな空間がない状態だ(新華社/アフロ)

 避難所・避難生活学会の常任理事で新潟大学大学院特任教授の榛沢和彦氏はそう指摘する。

 床に雑魚寝で、プライベート空間は確保されず、トイレは物陰で済ませる──。避難所でみられるこうした光景は、100年以上前の関東大震災から変わっておらず、令和6年能登半島地震でも繰り返された。

1959年に起こった伊勢湾台風時、中学校での被災者の様子(SANKEI SHIMBUN)

 輪島市内の小学校で避難生活を送った輪島商工会議所女性会会長の澤田珠代氏はこう振り返る。

「床に段ボールを敷いて寝ていたとき、寝返りをしたら男性の顔が目の前にあり、がく然としました」

 奥能登の20カ所以上の避難所を視察した榛沢氏は「多くの避難所に段ボールベッドが搬入されるまで3週間程度かかり、パーテーションのある避難所も少なかった」と語る。

 穴水町で避難所などの支援を行った認定NPO法人レスキューストックヤード(名古屋市)常務理事の浦野愛氏は「国からの支援で届いた期限切れ間近の菓子パンを泣きながら3日間食べ続けた人や、アルファ化米など、栄養価に偏りのある食べ物で何日も凌いだ避難所もありました」と話す。

 避難所で人間らしい生活をするためにカギを握るのが、榛沢氏の唱える「TKB48」だ。TKB48とは、「トイレ、温かい食事(キッチン)、ベッド」を発災「48時間以内」に準備することを意図したキーワードだ。欧米ではこれが当たり前で、イタリアの避難所では、発災後すぐに個室のトイレや簡易ベッドが準備され、パスタやワインなどの温かい食事が提供されているという。

 「日本では、避難所は『一時的に耐え忍ぶ場所』という固定観念がありますが、欧米の避難所には『公共の福祉』という理念があります。被災者が元の生活を取り戻し、一日でも早く仕事に戻っていくことが、地域の活性化や国力の回復にもつながるので、避難所は『みんなが元気になる場所にしなければいけない』という認識が共有されています。日本も発想の転換が必要です」(榛沢氏)

 なぜ、日本では欧米のような避難所運営が実現できないのか。榛沢氏は「日本の災害法制では、基礎自治体が災害対応を所管すると定められているから」だと指摘する。災害は頻繁に発生するものではなく、自治体職員も2~3年で部署異動してしまうため、経験や知見を蓄積することが難しい。また、自らも被災者である被災自治体職員が避難所を運営するという構造自体が歪んでいる。

 輪島市企画振興部長の山本利治氏は、「発災後に行政の職員が所定の持ち場につけないケースもありました。情けない話ですが、職員自身も被災者であり、初動対応が混乱してしまいました」と振り返る。


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